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定期講演会記録36


第36 中部地雷問題支援ネットワーク講演会
ランドマイン・モニターレポート2016の報告

 
開催日時  平成29年5月6日(日) 午後2時~4時
 
 
開催場所  名古屋市東生涯学習センター 第2集会室
 
 
講  師  白井敬二(中部地雷問題支援ネットワーク代表)
 
 
参加者   5名
 
 

皆さん、こんにちは。本日は連休中に関わらず、
この講演会にお出でいただき、ありがとうござい
ます。中部地雷問題支援ネットワーク代表の白井
です。
 
36回目となる今回の講演会では、昨年11月に
公表されたICBLのランドマインモニターレポート
2016の内容を中心にお話します。私が1998年に
対人地雷問題に取組み始めて20年になります。
 
まず、本日お話する内容の全体です。
 
(1)被害者の状況について
 
(2)対人地雷禁止条約への参加
 
(3)対人地雷の使用・生産
 
(4)地雷除去の状況
 
(5)国際支援の状況
 
(6)被害者支援
 
(7)日本の対人地雷問題支援
 
(8)まとめ
 
 
 
 
 
(1)被害者の状況について
 
被害者の状況です。報告では2015年に61カ国
4地域で6,461人の対人地雷と戦争残存爆発物の
被害者がありました(2014年には54ケ国4地域
3,678名)。
 
2015年に被害者の報告が大幅に増加した4カ国
(リビア、シリア,ウクライナ、イエメン)
全体の被害者数を75%増加させました。
 
しかし、これでも完全な数字ではありません。
ランドマイン・レポートが出始めた1999年から
毎年言われていることですが、データが不正確
な国があり、データ収集ができていない国も依然
としてあるからです。
 
累積被害者の数は10万人(2014年は96,000人
と推定)ほどと推定されています。これも2005年
頃には25万人と推定されていました。
 
ランドマインモニター2016では、対人地雷被害者
の8割は一般市民で、そのうち約4割は15歳以下
の子どもです。この比率は1999年からほとんど
変わっていません。
 
 
 
 

 
これはランドマインモニターレポート2016に
掲載されている被害者のグラフです。2015年
に急上昇しています。しかし、実体はこの倍の
数字でも不思議はありません。

2003年のランドマインモニターレポートでは、
被害者の実際の数は2〜3倍(15000人〜20000人)
だろうと推定されてい

大幅に被害者が増えた国は国内に政治的な混乱
のある国ばかりです。
 
リビア(2011.8.23カダフィ死亡)にはISISが
入り込み無政府状態の中で暫定政府との戦闘が
続いています。
 
イエメンでは、アラブの春の影響から、反国王派
が勢力を持ち、2015年月のクーデターから内戦
状態です。
 
ウクライナは2014年2月の騒乱以後ロシア軍が
侵攻し、3月にはクリミア併合が行われましたが、
反ソ連・反政府派が激しく抵抗しています。
 
シリアはアサド政権の人権無視の横暴な政治に
反発する反政府勢力やISISとが政権側と戦い
ロシアやアメリカその他の有志連合も戦いに
加わり混乱を極めています。
 
さて、対人地雷被害者の中に死亡者は含まれて
いるのですか? という質問は以前からよく
受けます。応えはイエスです。ただし、死亡者の
データがランドマインモニターレポートに明記
されたのは、2005年からです。
 
なお、IEDによる被害者が過去最高になったと
報告があります。戦乱地域では材料が簡単に手
に入るため、安価に出来るIEDの製造が増える
のです。なお、2005年頃には25万人と推定
されていた累積被害者は現在10万人を越えて
いると報告されています。
 
 
 


対人地雷やIED被害者の多くが市民であることは
統計が取られ始めたことから指摘されていますが、
その8割の比率は今でも変わりません。最近の
子どもの被害も約4割と一定しています。



 
 
 

 
これは生存者と死亡者の比率が分かる
データのグラフです。
 
死亡者数が増えている大きな理由は、IED
被害者数が増えていることです。ただし、
このグラフでは分かりにくいのですが、
死亡率そのものは下がっています。
 
 
 
 
 
 

 
毎年の対人地雷等被害者数の最多国はここ
10年間ずっとアフガニスタンです。1978年
以降長年に渡る戦火にさらされた結果、領土
のあちこちに無数の対人地雷やIEDなどが
埋められているからです。
 
二番手の国は年によって激しく入れ替わって
います。信頼できる統計が不在だからです。
今後統計精度が上がれば、隠れていた被害者数
が現れ、全体の数が増えると予想されます。
 
一方順調に被害者の数が減少している国が、
カンボジア、コロンビア、ビルマです。ある
程度平和な状態が維持され、回避教育がなされ、
対人地雷等の除去が順調に進んでいるからです。
 
イラクも一見順調に被害者が減少しているように
見えるのですが、実は戦乱で一部データが集め
られない状態です。ランドマインモニター2016
には「打ち続く戦乱の影響でイラクの対人地雷・
ERWの被害者数は明らかに一部しか計数されて
いない。イラクではたった58名しか報告されて
いないが、実際にはもっとずっと多くの被害者
が発生していると推定されている」と書かれて
います。
 
 
 
 
 

 
被害者を生んでいる国の数のデータです。50ヶ国
を切ることが出来ない状態が対人地雷全面禁止条約
発効後15年以上続いていることが、対人地雷除去
の難しさを示しています。
 
紛争が収まらず、新たな紛争が起こっているのです。
なお、4地域とは、国連から国として認められて
いない、ソマリランド、
ナゴルノ・カラバフ(アゼルバイジャンの西部地域)、
西サハラ、アブハジア(ジョルジアの北西国境地域)
です。
 
 
 
 
 

 
 
IEDによる被害者数が年々増えていることが
分かります。2014年に対人地雷被害者数を
はじめて上回った自己活性型IEDによる被害者数
ですが、2015年に記録した1331人のIEDに
よる被害者数は過去最高です。
なお、ERW(戦争残存爆発物)による被害
が急増した理由は定かでありません。ちなみ
にIEDとは
improvised explosive deviceの頭文字を
とったものです。
 
IEDにはいろいろな種類がありますが、
被害者活性型のもの、つまり被害者が踏んだり
罠線を引っ掛けることで爆発するものが対人
地雷全面禁止条約の対象になります。
 
 
 
 
 

 
 
これが被害者活性型かどうかはっきりしません
が、榴弾にボタンがつけてあり、爆薬の箱が
ありますので、埋めれば地雷と同じ働きをする
と思われます。材料となる砲弾その他の爆発物
が簡単に手に入る状態で、安価に簡単に作れる
IEDによる被害は今後も増える可能性が大です。
 
 
 
 
 
あまり話題になることもありませんが、地雷除去
をする専門家も作業中に事故に遭うことがあります。
原因は暑さによる集中力の低下やちょっとした
不注意などいろいろあるでしょうが、事故が
起これば命も失いかねないものです。
 
カンボジアではディマイナーの給料が200ドルと
聞いたこともあります。しかし、多くのディマイナー
は志を持った人たちで、自分の手で国土を安全にし、
被害者を出さないことに生き甲斐を感じています。
 
 
 
 
 
(2)対人地雷禁止条約への参加
 
 
対人地雷全面禁止条約への参加国が
162ヶ国で止まっています。米ソ、
中国、インドなどの、「地雷大国」
が参加しない状況は依然として変わって
いません。
 
それぞれの国の軍部の強い反対がある
からでしょう。「これを認めたら、
核兵器まで禁止されてしまう」と
詰め寄られているかも知れません。
 
ICBLの側は極力条約参加説得に努めて
きていますが諦めの雰囲気さえある
ように感じます。
 
なお、参加していない31ヶ国4地域
の保有の保有する対人地雷数は
約5千万個と推定されています。
 
 
 
 
 
 

 
対人地雷全面禁止条約参加国数の経緯です。
これを見ると2005年頃から参加国数の
伸びが非常にゆるやかになっていることが
よく分かるでしょう。非参加国31ヶ国4
地域の結束が強いかも知れません。
 
 
 
 
 
(3)対人地雷の使用・生産
 
対人地雷を使用している国は当然ながら、
対人地雷全面禁止条約に参加していない国
です。中でも、ビルマは反政府勢力に対して
ずっと対人地雷を使い続けています。
 
生産国として挙がっている国で、使用して
いるのはビルマだけです。対人地雷の生産
機能を持つ国は11ヶ国(中国、キューバ、
インド、イラン、ビルマ、北朝鮮、パキスタン、
ロシア、シンガポール、韓国、ベトナム)
ありますが、最近実際に生産しているのは、
インド、ビルマ、パキスタン、韓国だけです。
 
ビルマ以外の生産国は生産した対人地雷を
どうしているのでしょうか。自国軍隊の貯蔵
にも限界があるはずです。各国の反政府勢力
向けの対人地雷の地下マーケットがあるの
かも知れません。
 
 
 
 
 
(4)地雷除去の状況
 
対人地雷除去について、ICBLは一時除去数
が問題ではない、安全になった面積こそが
重要だという姿勢を打ち出しましたが、
やはり対人地雷問題の解決に向けての進捗
状況を説明する際に、説得力を持たせるため
には数が必要のようで、除去面積に加え、
除去した対人地雷や対車両地雷の数を再び
掲載するようになりました。
 
現在、60ケ国4地域に対人地雷が埋設されて
いると報告されています。これは、前年の
57ケ国4地域より3ケ国(パラオ、モザンビーク、
ナイジェリア)増えています。
 
ICBLは2005年頃に、対人地雷が埋められて
いる面積は世界中で約20万平方キロメートル
と発表したことがあります。それから計算する
と、200000÷200で、除去を終えるには千年
くらいかかる計算になります。
 
 
 
 
 

 
これは、最近数年間は毎年約200平方
キロメートルの地雷原から対人地雷等が除去
され、安全になっていることが分かるグラフ
です。ただし、偏りがあることは仕方あり
ません。多くの支援金が投入されれば、
除去のスピードが加速するのは当然です。
しかし、最近の支援金減少は気になります。
 
 
 
 
 

 
こちらは、対人地雷と対車両地雷の
年間除去数の経緯のグラフです。かなり
でこぼこがあります。
 
除去面積の少ない年に各国からの
支援金額が激減しているわけでは
ありませんが、2007年の米国
サブプライムローン問題、2008年
9月のリーマン・ブラザーズ破綻に
よる世界経済の悪化、2011年の
欧州債務問題など、世界経済の悪化
の影響を受けていることは間違い
ありません。
 
 
 
 
 
(5) 国際支援の状況
 
国際支援は世界経済悪化の影響を受けて
います。ここ2年間連続の支援金額減少は、
世界経済の低調を物語っているかも知れません。
 
 
2015年に世界中から集められた支援金総額は、
35支援国および14埋設国から約4.7億ドル
(支援国分は3.4億ドル)です(2014年は
6.1億ドル)。
 
アメリカ、日本、EU、ノルウェー、オランダが
上位5カ国で、全支援額の71%を支援しています。
 
支援金の受け取り国のトップ5は、アフガニスタン、
イラク、ラオス、カンボジア、シリアで全体の
48%を受け取っています。なお、アンゴラの
受取金額は大幅に減少しました。
 
 
 
 
 

 
2011年に欧州債務問題が起こり、世界経済が
落ち込んだ影響のあった後、2012年に持ち直した
かに見えますが、以後国際支援金額は減少し続けて
います。景気の悪いこと以外にも、対人地雷に
対する世界の関心が主要国で薄れていることも
一つの原因かも知れません。
 
 
 
 
 

 
1999年以降の主要な支援国の国別支援額の
推移グラフです。2015年の支援金額トップ5は、
アメリカ、日本、EU、ノルウェー、オランダと
なっています。日本は対人地雷問題を積極的に
支援するように方向転換した以降、ほぼ毎年
上位5位以内に入る優良支援国です。
 
 
 
 
 

 
これは最新の2014年と2015年の支援金額を
表したものです。日本は2014年は3位、2015年
は2位です。世界の国々が支援額を減額する中、
大きな借金を背負う国としては良く健闘して
います。
 
なお、2015年の日本の支援額、4930万ドル
(約50億円)は自衛隊の購入する日本製の
輸送機1機分の値段とほぼ同じです。
 
 
 
 
 

 
この棒グラフはアメリカと日本の支援金額を
抜き出したものです。ここ3〜4年はアメリカ
の支援金額のほぼ半分の金額を支援し続けて
いることが分かります。アメリカに対する忖度
でしょうか。
 
 
 
 

 
しかし、GDPを見ると世界第3位の日本ですが、
その規模はアメリカの4分の1以下だということ
が明らかです。
 
 
 
 
 

 
ちなみに、これは2001年の支援国ベスト20です。
日本の順位は11位です。2001年当時、日本政府
はまだ、対人地雷問題支援に積極姿勢がありません
でした。ですが、2002年には支援額を急激に増やし
ました。
 
 
 
 
 

 
こちらは2001年当時の世界のGDPベスト20
ですが、日本は2位でした。支援金額が11位
だったことから、比較によって当時の日本政府
の対人地雷問題への関心の低さが分かります。
 
 
 
 
 

 
国際支援金を受け取っている国は2015年
には、アフガニスタン、イラク、ラオス、
カンボジア、コロンビアです(2014年
アフガニスタン、ラオス、イラク、アンゴラ、
カンボジアの順)。
 
トルコとアンゴラは受取額が大幅に減少
しました。アフガニスタンの支援金受取額
が2012年以降急激に減少している点に
ついてランドマインモニター2016は支援側
の優先順位が下がったこと、期限付きの
プログラムのいくつかが終了したことを
挙げています。
 
 
 
 

 
2014年も2015年も国際支援金の使途の
トップは対人地雷除去で抜きん出ています。
被害者支援は除去の10%程度です。この
傾向は以前からずっと変わっていませんが、
最近ではもっと被害者支援に支援金を
振り分けるべきだという声が各国の対人
地雷被害生存者から強く出ています。
 
 
 
 
 
 
(6)被害者支援
 
被害者支援についてはランドマインモニター
レポート2016に具体的な記述が少ないのです。
その状況は残念ながらずっと以前から変わって
いません。
 
支援金がほとんど被害者支援に廻っていないため、
直接の被害者支援が実施できない状況が続いており、
被害者は困難な状況の中で苦しい生活を強いられて
います。被害者支援と活動に前進があったと答えて
いる国が増えていますが、本格的な活動はこれから
です。
 
 
 
 
 
(7)日本の対人地雷支援問題
 
日本は世界でも有数の対人地雷問題解決のための
資金提供者です。今後も引き続きその努力を継続し、
増大させていく必要があります。
それは平和国家日本のステイタスを強化すること
になります。
 
日本の支援金はほとんどが地雷除去関係の日本の
NGOの活動に使われていることが多いのです。
日立の地雷除去機が良い例です。
 
今後、日本の拠出する支援金をもっと障害者支援
に回す努力が今後も必要です。また、支援の状況
の透明化と監視にも力を注ぐべきです。
 
また、国民に支援金の用途について積極的に情報
を開示することが今後政府に求められます。
 
 
(参考 これまでの日本の支援金額)
 
日本の対人地雷対策支援(1998~2006年)
 
 
・対人地雷除去:約198億円
 
・地雷犠牲者支援:約2.7億円
 
・地雷回避教育:約5.9億円
 
・その他:約50億円
 
 
 
 
(8)まとめ
 
 
対人地雷等の被害は最後のひとつを取り終える
まで終わりません。また、被害生存者が希望
を持って生活できる環境も必要です。
 
対人地雷全面禁止条約に参加しない国への
働きかけを辛抱強く続けて行く必要があります。
 
地雷除去を加速して、地雷被害のない国をもっと
多くする必要があります。
 
国際的な支援金額を増やす努力も必要です。
対人地雷被害生存者とともに力を尽くしましょう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
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