出張講演会記録

蒲郡中学生への講演(2007年9月6日)
平和講演(2007年9月24日 守山区役所)


終わらない悲劇、対人地雷問題

1、 大切なこと

 対人地雷の存在を知ってください。対人地雷に苦しむ人々のいる事を知ってください。
 対人地雷の被害に苦しむ普通の人達の悲しみ、苦しみ、希望を想像してみてください。そして少しでも今の状態を良くす るためにどうしたら良いか考え、行動してください。

2、対人地雷問題の背景

 対人地雷の問題を抱える国は78ヶ国とランドマインモニターレポート2006の中で報告されていますが、それらの国々の多くは長い間戦争や内戦にさらされ、広大な地雷原が存在しています。その住民の多くはかつて避難民として一度故郷を捨て、平和になってから帰ってきた人々です。こうした国々はほとんど貧困な開発途上国で、平均月収が日本円で1万円以下の場合がほとんどです。国連の統計では一日1ドル以下の収入の人口は12億人に達します。人々(子供も含め)は貧しい生活のため、地雷原と分かっていてもそこで農耕を行い、水を汲み、薪を拾い、家畜を飼わざるを得ません。そんな中で地雷の被害に遭ってしまうのです。

3、 対人地雷とは何か

 一般的には防御的兵器と言われ、地中や地表に置かれ、人や車両の接近、接触で爆発するように設計されています。世界中では約450種類あります。うち約350種類が対人地雷です。世界中に約6千万個が埋まって(設置されて)いると言われています。構造が単純で製造も容易なため1個300円位のものからあります(高いものでも数千円です)が、取り除くには1個あたり10万円以上かかります。教育、機材、人件費にお金がかかるからです。地雷には地中に埋めて人が踏むと爆発するタイプの他にワナ線を仕掛けるもの、地上にばらまくもの等いろいろあります。陣地を守るために多く使用されますが、負傷者を出させて敵の兵力を削減する目的の場合、敵軍の足留め・迂回強制、住民を難民化させるために使用される事もあります。さて、対人地雷は貧者の核兵器と呼ばれることがあります。なぜなら、時間軸を長く取れば対人地雷も「大量破壊兵器」だからです。核爆弾は一瞬にして数百万人の命を奪いますが、対人地雷も数百年かけて数百万人を殺傷するのです。

4、 対人地雷の特性

(ア) 無差別性(兵士か市民かを問わず犠牲者となります。性別・年齢も問いません。時には牛、象、トラなどの動物さえも被害者になります。)


(イ) 永続性(プラスティック性の対人地雷の爆発性能は最低でも50年は継続します。戦時の武器であるのに、戦争の終わった後に一般市民の被害者がたくさん生まれるのです。)


(ウ) 残虐性(わざと殺さず、足首を吹き飛ばすように設計されています。傷はむごいものです。病院到着に平均13時間もかかり、体力の無い子どもの85%は治療前に死んでしまいます。

5、 対人地雷被害廃絶への願い

(ア) 紛争の現場で悲惨な被害者の状況に気づいたNGOが「この惨状をなんとか出来ないだろうか」と対策を語りあい、その過程で対人地雷廃絶国際キャンペーン(ICBL)ができました。


(イ) 1997年には対人地雷全面禁止条約が122カ国(日本を含む)の参加で成立しました。
(2007年8月現在では155カ国が参加して、40カ国が不参加です。)

6、 人地雷全面禁止条約の特徴は

(ア) 生産しない、使用しない、移動(売買)しない、備蓄しないという全面禁止を目指しました。


(イ) 国際条約は全員一致で成立するのが国際法上の常識でしたが、対人地雷全面禁止条約はその常識を捨て、参加できる国のみの合意で条約を作りました。

7、 対人地雷問題の現在の問題は

(ア) 地雷大国(アメリカ、ロシア、中国、インド等)がまだ不参加です。
 全世界に埋設されている対人地雷の数は約6千万個と推定されています。一方保有地雷数は1億8千万個と言われます。中国1億1千万個、ロシア2650万個、アメリカ1040万個、インド600万個などです。これらの国々をなんとか対人地雷全面禁止条約に参加させたいと、JCBLは2005年から「ちょうちょキャンペーン」に取り組んでいます。


(イ) 対人地雷全面禁止条約は完全ではありません。抜け穴(一部の例外)があります。例えば条約の対象はあくまで「国」です。反政府ゲリラなどは対象外です。現実には彼等の地雷使用が大きな脅威なのです。また、対車両地雷やクレイモア地雷が対象から外れています。


(ウ) 各国の援助が対人地雷の除去に多く(9割)、被害者支援に少ない状況が続いています。


(エ) 新たな脅威の「クラスター爆弾」に注目が集まって対人地雷への関心が薄らいでいます。


(オ) 対人地雷問題が解決してしまったように言う人がいますが、埋設地雷数はそれ程減っていませんし、毎年1万5千人以上が被害を受け、延べ被害者は世界中で50万人以上います。この人たちがどれ程苦しい生活を送っているか考えてみて下さい。

8、 私たちにできる対人地雷問題への行動とは

(ア) 自分が対人地雷問題に関心を持って勉強し、周りの人に教えてあげてください。


(イ) JCBLの運動(例えばちょうちょキャンペーン、募金)に協力してください。


(ウ) 自分の出来ること(HP、音楽、翻訳、講演等)で支援してください。
「地雷を掘りに行きたい」という声も時折聞きます。しかし、地雷を除去する技術は大変専門的で、厳しい訓練を受けなければ身につきません。また、とても危険な作業です。2千個の地雷を除去する間に一人の地雷除去技術者(ディマイナー)が事故で死亡しています。私の古い友人で地雷被害者でもあるカンボジアのトゥン・チャナレットさんは「一般の市民の方々に地雷除去をしていただくことは期待してはいません。それよりも地雷被害の事を一人でも多くの人に知ってもらえるよう教えてあげてください」と言っています。


(エ) 日本の援助について
 平成18年度の日本の地雷関係援助費は44億5千万円ほどです。世界中の援助額480億円の約10パーセントです。少ない金額ではありません。しかしながら、平成19年度の日本の一般歳出予算額は約89兆円です。18年度の防衛予算資料から抜き出してみると、戦闘機が一機約130億円、護衛艦一隻約750億円です。こうした金額から見れば日本の援助額は微々たる金額です。(一般予算の0.05パーセント)国内にもいろいろな問題があるにしても、もっと援助を、特に被害者援助を増やしていただきたいものです。

9、 終わりに(忘れないで)

  世の中の多くの苦しみは戦争(紛争)から生まれています。世界が平和であれば本当に多くの人々が安心して暮らせるのです。対人地雷の問題も戦争が続く限り完全には解決しません。難しい事ですが戦争(紛争)を無くす事が一番大切です。どうしたら平和で安全な世界が実現できるかをみんなで考えて、それを実現させるために力を合わせましょう。幸い日本には世界に誇れる平和憲法である日本国憲法があります。特に第9条では軍備を持たない事、戦争をしない事がはっきり書かれています。私は世界中にこのすばらしい憲法が広まることを心から願っています。熱心にお聞きいただき深く感謝申し上げ、終わりとさせていただきます。

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初めてのラジオ出演ーCBCラジオ 
多田しげおの気分爽快〜朝からP.O.N(平成18年5月26日放送)

 5月26日、珍しい事にラジオ放送局(しかも大手のCBC)から声が掛かった。地雷について生放送で語って欲しいという。いかにも頭のよさそうなディレクターの吉田さんからの電話だ。朝8:05分から8:45分の時間帯だとの事。ちょうちょキャンペーンの宣伝もしたかったので二つ返事で引き受けた。しかし、何となく違和感があった。なぜ、この時期にお呼びがかかるのか?ともあれ、事前の質問に答える文書を作成し、Fax送信した。呆気無くOK。後は本番の日を待つのみとの事。そんなのでいいの?と言いたくなるのをあえて堪えた。以下は当日のやりとりの概要です。

・地雷とはどういうものか

「土地もしくは他の物の表面に、叉は土地もしくは他の物の表面の下方もしくは周辺に敷設されるよう、及び人叉は車両の存在、接近または接触によって爆発するように設計された弾薬類をいう。」(1999年3月1日発効 対人地雷全面禁止条約より)


(地雷の種類は約450種類と言われ、その内の約350種類は対人地雷)



         対象      火薬量       爆発に要する圧力
1. 対戦車地雷  戦車      5kg以上         100kg以上
2. 対車両地雷  車両、人間   1と2の中間        同左
3. 対人地雷   人間      20g〜300g        3〜5kg




対人地雷は子どもが踏んでも爆発する。対戦車地雷は戦車に踏まれると爆発するが、人に踏まれて爆発するものもある。


*地雷の中で特に問題なのが「対人地雷」である。なぜなら、戦争や国内紛争の終結後も50年以上爆発能力を温存する。そして一般市民を無差別に(時には動物も)殺傷する。2005年中にも世界中で約1万5千人〜2万人が死傷した。さらに、対人地雷は人にけがをさせる事を目的として設計されており、身体の一部をむごく吹き飛ばしたり、他の身体部位にも一生残るようなひどいけがを負わせる。無傷でも地雷のショックで一生の精神的な障害を負う人もいる。
 以上を対人地雷の、残存性、無差別生、残虐性と呼んでいる。

(対人地雷の定義)

「人の存在、接近叉は接触によって爆発するように設計された地雷であって、一人もしくは二人以上の者の機能を著しく害し、又はこれらの者を殺傷するものをいう。人ではなく車両の存在、接近叉は接触によって起爆するよう設計された地雷で処理防止のための装置を備えたものは、当該装置を備えているからといって対人地雷であるとは見なされない。」(1999年3月1日発効 対人地雷全面禁止条約より)

(対人地雷はなぜ人を殺さず、負傷させるように設計されたか)

軍隊が活動中、仲間が死んでしまえばそのまま放置する。しかし、大怪我をした場合には見捨ててはおけない。一人の負傷者につき4人の介護者がつき、戦線から離脱せざるを得ない。対人地雷が、あえて死に至らしめず、大怪我をさせる理由である。また、同時に怪我で苦しむ仲間を見る事による精神的ダメージも狙っている。対人地雷が「悪魔の兵器」と呼ばれるゆえんである。

地雷の歴史

地雷は中国の「明」の時代にその原形を見る事ができるとされるが、歴史的に人を殺傷するために使われた地雷が最初に確認できるのは、南北戦争(1861年〜1865年)である。その後、第一次世界大戦では、当時の新兵器である「戦車」に対抗する防御武器として地雷が使われた。第二次世界大戦でも、都市や陣地を防衛する目的で約3億個の地雷が使われた。この折り、対戦車地雷を除去されないように、その周りに布設した小型地雷が現在の対人地雷のルーツとされている。その対人地雷が飛躍的に進化し、大量に使われたのがベトナム戦争であった。

世界中に埋められたまま残っている地雷はいくつ位あるか

当然の事ながら、世界中に埋められている地雷を一個一個数えた人はいない。
生産個数の正確なデータも無いが、地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)のランドマイン・レポート1999年版では約6千万個〜7千万個と推定している。ちなみに、一年間で除去できる地雷の数は世界中で約20~30万個と言われている。

地雷による事故・被害の現状は

ICBLのランドマイン・モニター・レポート2005年版は、58ヶ国、8地域で地雷による死傷者が年間約1万5千人〜2万人発生したと推定している。


 地雷による事故・被害の状況というには二つの意味が有る。一つは負傷者の描写である。「地雷問題ハンドブック」の記述を転載する。「殺すことより、傷を負わせることを目的に作られた対人地雷のけがは残虐を極めている。被害者の手足は爆発で吹き飛ばされ、骨が切断箇所から飛び出し、残った筋肉はつぶれて押し上げられる。大腿部、性器、臀部、腹部など、体中に傷を負う場合も少なくない。さらに、爆風で事故現場の石、泥、草、身につけていた衣類や靴の破片までもが、筋肉や神経組織の深くまで侵入し、傷はさらに複雑になる。地雷を手で触っている際に爆発が起これば、失明、顔面の損傷、両手の切断などを余儀なくされる。」


二つ目は、統計である。国により、時期により数値は変動するが、民間人の地雷による死傷者は全体の3割から8割に上る。そのうちの1割から4割が子どもである。子どもの犠牲者の場合、体力がないため、8割以上が病院に到着する前に死亡しているというデータもある。


 関連して言うと、地雷被害者への支援が非常に少ないのは問題である。各国の全援助額の九割が地雷除去関連機材の調達に当てられ、一割程度しか被害者支援に当てられていないのは極めて深刻な問題である。地雷被害者とその家族は過酷な生活を強いられているからだ。併せて、地雷被害に対する回避教育にももっと力を入れる必要がある。多くの一般市民が紛争後の土地に帰り、地雷原や地雷を知らないために被害にあうからだ。回避教育に要する経費は地雷除去に要する経費に較べて極めて少なくて済み、地雷の被害を事前に効果的に防止することが出来る。

地雷の除去はどのように行われているか

 地雷除去のプロセスには三つの段階がある。つまり、地雷原の特定、地雷の探知、地雷の処理である。


地雷原の探知のためには、過去の戦闘状況、地雷事故の発生記録、近隣住民からの聞き取りなどを複合する。地雷原が特定されるとその周りをテープ、杭などで囲い、事故防止に勤める。


地雷の探知には金属探知機、ブロッダー(差し棒と呼ばれる金属棒)、地雷犬を組み合わせ、あるいは単独で使用する。選択時には現地の植生、地形、土質などを慎重に検討する。いずれも一長一短がある。金属探知機は、対人地雷にわずかな金属しか使われていないため、感度を最高に上げておく。そのため、鉄クズ、銃弾、砲弾の破片などでも全て反応する。カンボジアやアフガニスタンでは100回から400回の警告音でやっと一個の地雷が見つかる確率だと言う。


ブロッダーが使えるのは、土壌が比較的柔らかい場合だけである。金属探知機にしろ、ブロッダーにしろ、作業には気の遠くなるような忍耐と集中力を要求される。地雷犬は地雷の火薬の匂いに反応する。しかし、地雷犬の集中力は劣悪な環境下では長続きしない。暑さは苦手で、風が強ければ作業ができない。


地雷の処理には不活性化処理と爆破処理があるが、安全面から一般的に後者が選ばれている。ダイナマイトによる誘爆処理である。


 機械による効率的な地雷除去の方法がいろいろ考案され、実施もされているが、100%の除去は機械では困難のこと、機械が持ち込めないような地形が多いこと、メンテの問題などがあり、地道な手作業による除去が主流である。

・地雷廃絶運動の現状

 世界的に見れば、1997年12月にオタワ条約(対人地雷全面禁止条約)が122ヶ国によって調印され、ICBLがノーベル平和賞を受賞したころが地雷廃絶運動のピークだったかも知れない。年々のデータを見れば、世界の地雷対策援助費の総額は毎年増加しており(2004年中に3.99億ドル)、オタワ条約締約国(署名し、批准した国)の数も増えて、現在(2006年5月21日)で151ヶ国を数えている。地雷生産国は13ヶ国、地雷を使用した国は4ヶ国に減少した。地雷廃絶運動は順調そうに見える。


 しかし、依然として世界中の地雷による死傷者数は年間1万5千人から2万人と報告され、激減している訳ではない。地雷大国とも言える中国、ロシア、アメリカ、インドなどはオタワ条約に署名さえしていない。もちろん世界中から悲惨な地雷被害者を根絶するためにはこれらの国々をオタワ条約に参加させる事が絶対必要である。保有する地雷数だけで1.8億個もあるのだから。


一方、オタワ条約を改正して「人が踏んでも爆発する対戦車地雷」を禁止する、国内の米軍基地の倉庫にある対人地雷を撤去させよう、という提案に消極的な締約国(日本やドイツなど)があることが目につく。


 かつての地雷廃絶に向けての情熱が色褪せてしまったと見る向きもあるが、地道な働きかけは世界中でずっと継続している。日本でもJCBLが2005年の愛・地球博で、条約未参加国に早期の参加を呼び掛ける署名運動の「ちょうちょキャンペーン」を展開した。会場で集められた、13千枚のメッセージは条約に参加していない各国の大使館に届けられ、反響を呼んだ。


これを受けて、JCBLは2006年にも「ちょうちょキャンペーン」を継続することとした。普通の市民の小さな力が集まり、大きな力を生み出し、世界を変える可能性があることを特に若い人々に訴えたい。


6月18日午前10時〜11時30分には、伏見のなごやボランティア・NPOセンター集会室で「みんなで集めるちょうちょが世界を変える、平和をつくる!」と題して、ちょうちょキャンペーンを主に小中学生を対象に訴える。
6月24日〜25日には久屋大通公園のエンゼル広場で、JCBLが愛・地球博の継続企画としてブース展示をする。この時にもちょうちょキャンペーンを盛大に呼び掛ける予定。多数の参加を期待したい。



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