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定期講演会記録 22

第22回 中部地雷問題支援ネットワーク講演会
クラスター爆弾禁止条約成立と今後の課題

開催日時   平成21年2月22日(日) 午後1時30分~4時30分
開催場所   なごやボランティア・NPOセンター  会議室
講  師   北川泰弘氏(地雷廃絶日本キャンペーン代表)
参加者    11名

 皆さん、こんにちは。中部地雷問題支援ネットワークの白井です。本日はお忙しい中、遠方からもこの会にお出で
いただき感謝に堪えません。今回の第22回目の講演会には東京からJCBL代表の北川泰弘さんをお招きしました。
北川代表のプロフィールは講演会のご案内通りですが、もう一度改めてご紹介いたします。 
 現在、北川代表は埼玉県新座市に在住されています。1952年に電気通信省(今のNTT)入省し、1953〜55年名古屋中央電話局に勤務されました。1959〜61年には岐阜電気通信部勤務され、1963年にコロンボ・プラン電気通信
専門家(現在のJICA専門家)としてカンボジア勤務されました。1991年にもNTT関連会社役員としてカンボジアに渡り20年間の内戦で破壊した電気通信設備の復興への協力を提案しました。1992年義肢装具士派遣のため「プノンペンの会」を設立し、事務局長に就任されました、1995年、カンボジア市民フォーラム地雷分科会世話人となりました。1997年7月のJCBL設立に中心的に参加し、代表に就任しました。日本政府が対人地雷禁止条約に署名・批准する過程において、人道的な立場に立つNGOとして、政府に対し強力な働き掛けを行ないました。現在も JCBL代表としてICBLとの連絡・調整、内外マスメディア及び地雷問題に関心を持つNGO、個人への情報提供・働きかけ等を精力的に展開しています。2003年度「朝日社会福祉賞」受賞されています。
 さて、今回の演題は「クラスター爆弾禁止条約成立と今後の課題」といたしました。クラスター爆弾は第二の対人地雷だとして問題視されてきました。2007年2月に初めてのクラスター爆弾に関する「オスロ会議」が開かれてから僅か1年10ヶ月後の昨年12月3日に103カ国の署名がなされ、クラスター爆弾禁止条約が成立しました。後は30ヶ国の批准、と発効を待つばかりです。今日は条約成立に至る経緯とその意義、今後の問題点などを当事者の立場からお話いただけると思います。
 クラスター爆弾のことを初めてお聞きになる方もいらっしゃるかも知れませんので、説明をかねてまず始めに、クラスター爆弾連合(CMC)が作成したDVDを見ていただきます。その後、北川代表にお話をいただき、最後に質疑等にお答えしたいと思います。途中お休みも入れる予定ですが、長丁場になります。どうかよろしくお願いたします。DVDの前にお手元の資料の確認をお願いいたします。資料は1から6まで番号の入ったものです。お確かめください。それではDVDをご覧ください。約15分です。なお、英語版のため私の翻訳を付けます。

クラスター爆弾会議  行動するのは今

ダブリン会議議長 ダヒー オキャリ
「意義なしと認めます。(クラスター爆弾禁止)条約は採択されました。」

2008年5月の、107ヶ国によるクラスター爆弾禁止条約採択は歴史的な前進の一歩である
決定された行動は約束通り実行されなければならない

ジム・バーク (アイルランド自衛軍軍事顧問)
「たとえ軍隊でも(クラスター爆弾使用について)最善な法的制約を持っているという証拠は今までに示されています。もし(クラスター爆弾に)安全装置が付いていたとしても全ての命令段階に法の存在が必要です。法的制約は任務においてとても効果的な教育のです。こうした軍隊はクラスター爆弾を使用する際の主要な問題を抱えています。」

ザック・ジョンソン (ハンディキャップ・インターナショナル技術顧問)
「クラスター爆弾の問題はそれがすべて爆発すると限らないことです。時には不発になります。(クラスター爆弾の)種類によっては不発率が他の兵器より高いのです。これらの兵器が使用され、全ての国が手に入れています。」

ピーター・ハービー (クラスター爆弾連合兵器部門責任者)
「市民が紛争に巻き込まれ、耐え難い痛みを被り、殺され、その期間、地域を離れざるを得ない事は最悪で、私たちに非常な嫌悪感を覚えさせるものです。何年も何十年も市民が被害を受けたり、殺されたりするのは、単にそういう紛争で使用される兵器の選択が誤っているからに過ぎません。」

クラスター爆弾は どのように機能するか
「クラスター爆弾は子爆弾が入った容器です。容器中に数個(5個〜10個)から650個の子爆弾が入っています。種類として大砲やミサイル発射装置で地上から発射するもの、航空機から発射するミサイルがあります。容器は飛行中に開口部が開いて子爆弾が散布されます。一度に何万個もの子爆弾がばらまかれ、数万平方メートルの広大な地域を荒廃させます。」

ザック・ジョンソン
「ここはクラスター爆弾が命中したと言われています。屋根に破片が雨霰と飛び散ったそうです。破片が二つありますが、この破片は軽車両に当たったものですが、その壁を突き破る威力があります。クラスター爆弾が軽車両と兵士で構成された部隊に投下されると破片が軽車両を破壊し、周りの兵士を殺傷します。」

ピーター・ハービー
「問題は数量なのです。ほんの数時間で数十万個、数日で数百万個の子爆弾をばらまく事ができ、このうち10%から40%が爆発せず、非常に広い範囲に不発弾が残り、不発弾による汚染地域となり、市民にとって大変な脅威になるということです。」
「いま見ているのがクラスター爆弾とよばれているものです。これには安全な自己破壊装置といって良いものがついています。こういうものが主流になるべきです。こちらに投下されたものはそういう安全装置のないものです。この子爆弾本体の起爆装置は作動状態でいつ爆発するかもわからず非常に危険です。」
「クラスター爆弾は冷戦時代主に中央ヨーロッパで広い戦場の多数の戦車に対して使う目的で開発されました。しかし予想された戦争は全く起こりませんでした。そしてクラスター爆弾は、主に世界中の開発途上国で使われてきました。」

1964年から1973年の間に2億7千万個のクラスター爆弾の子爆弾がラオスに投下された。推定では不発弾の数は9百万から27百万個とされる (ラオス不発弾連合の資料から)
不発弾が残っている村の数は1553、負傷または死亡した者の数は4837名(ハンディキャップ・インターナショナル 2007年の記録から)

コソボ」(1999年)
20万発以上のクラスター爆弾子爆弾が11週間の間に投下された。およそ3万個が不発弾となった。 不発弾の残った地域の54%は農地である。(ランドマイン・アクションの資料から)

ジム・バーク
「紛争直後の主な被害者はほとんど一般市民です。圧力式地雷や対車両地雷は条約で禁止されていますが、クラスター爆弾はまだ禁止されていません。」

南レバノン 2006年
「ここら辺には(不発のクラスター爆弾)子爆弾がたくさんあります。」(住民A)
「ここでいろいろな種類の(クラスター爆弾)子爆弾を見ました。(住民B)

5週間の間に4百万個以上の子爆弾が投下された。そのうちの数十万個が(落下の)衝撃では爆発しなかった。         (国連MACC資料から)

ピーター・ハービー
「いろいろな状況で非常に多数のクラスター爆弾が大きな範囲で使用された時に何が起こったかという最悪のシナリオが示されました。例えば人口の密集した地域であるいはその近くで、また農業地域で使われたのです。この結果、今後発生する問題はわかっていますが、早急には解決できません。」

少なくとも21ヶ国の土地にクラスター爆弾の不発子爆弾がある。数十億個の子爆弾が使用されるのを待って貯蔵されている。


被害について
スタン・ブラバンド(ハンディキャップ・インターナショナル)
「クラスター爆弾被害者の話は本当です。個人レベルでも、家族レベルでも、地域社会のレベルでも被害者になります。クラスター爆弾は恐ろしいものです。父親がクラスター爆弾の子爆弾で頭を吹き飛ばされたという話があります。1歳や2歳の子どもがクラスター爆弾で死亡した話もあります。」

ピーター・ハービー
「市民は空爆中でも家に帰ってきます。家が瓦礫と化していても家に入ろうとします。クラスター爆弾はしばしば瓦礫に混じっています。そこでクラスター爆弾をたまたま見つけ、取り除こうとして被害に遭ってしまうのです。」

アルベルト・ケイロ (国際赤十字委員会 アフガン整形外科部門責任者)
「クラスター爆弾の子爆弾は地雷といっしょです。それはむごいものです。生命の脅威です。ほとんどの犠牲者は男たちです。彼らは大黒柱かもしれません。(もしそうであれば)家族にとって非常な災難です。」

ジム・バーク
「専門家でなければ子爆弾の数の予測はつきません。そして子爆弾の特性上爆発しないで残った子爆弾がどれくらい危険かもわかりません。」

「私は畑に向かっていました。突然何か堅いものにつるはしが当たりました。同時に爆発音を聞きました。腹部と大腿部に鋭い痛みを感じました。私は病院に運ばれました。治療費を払うために私は水牛を売らなくてはなりませんでした」(ラオスの被害者)

「クラスター爆弾は文字通り、農業地域で(どこでも見られる)風景(の一部)になりました。例えばできた作物を台無しにし、個々の農園でも果樹園でも作物を収穫できないようにします。危険を冒して爆弾を除去し再びそこを使用ようとする個人や地域社会もありますが、どちらの場合も無傷では済みません。」

「この(農地)は貴重な収入源です。今が収穫の時なのです。耕作は収穫の時に合わせてするものです。でも今、私の手は縛られ、首を絞められているのです。動く事もできません。本当に動けないのです。何ができると言うのでしょう。どうしたら良いのか分かりません。」(レバノンの農夫)

実験室
実験と実戦の場(の違い)

ピーター・ハービー
「兵器の開発技術者が兵器を考案する場合、試験する兵器をかなり理想的な環境で実験します。つまり十分な硬度を持った軍事目標、滑走路、平坦な道路そして軽車両などを対象に指定します。しかし、実戦では何にでも衝突するのです。からみあった樹木に入り込み、ぬかるんだ沼地に飛び込み、雪に覆われた丘の斜面に衝突するのです。そういう衝突の衝撃は時に爆発には不十分なのです。また別の問題は兵器が年を経て古くなると正常に作動することが期待できないことです。その他の問題はクラスター爆弾の使い方です。戦場では本来の使用方法にかなわない不適切な射出があったり、不適当な飛行速度での、そして突入角度を誤った航空機の攻撃が行われます。」

ジム・バーク
安全の観点から言うと任務の状況次第ではこの兵器を信頼するのは困難です。作戦環境によってはとても高い不発弾が出ます。クラスター爆弾を使用するかしないかを決めるには多くの要素を考慮してからです。もう一つの問題はクラスター爆弾の着弾範囲です。衝突したときにどこまで子爆弾が飛び散るかということです。そう考えるとクラスター爆弾の使用の際にはその地域への一般市民の立ち入りは時間をかけて遮断されるべきです。」 

ピーター・ハービー
「攻撃対象地域が人口密集地に近い場所の場合、クラスター爆弾使用は難しいのです。人口密集地の中、あるいは近くでは市民と兵士を区別するというルールに従う事は困難です。」

ジム・バーク
「戦闘状況は不利か、どれほど緊迫しているか。特別の(クラスター爆弾を必要とする)爆撃目標が存在するのかといった、全ての要素が入り組んでいる命令の中でクラスター爆弾を使うかどうかを決定するのは大変困難です。それにしても諸般の事情を計算するのは非常に複雑な作業です。」

ピーター・ハービー
「クラスター爆弾で攻撃した場合どれくらいの割合で、地表に転がる不発弾によって長期的、短期的にどれくらいの市民の被害をだすのでしょう。クラスター爆弾の不発弾がどれくらい地表にころがるかは定かでありません。クラスター爆弾の特性つまり不正確、信頼性の低さからして国際人道法の基本法に合致しません。国際人道法に調和しようとするならクラスター爆弾は禁止されるべきです。


クラスター爆弾禁止条約
誓約と課題
ドン・マッケイ(ジュネーブ在住のニュージーランド国連大使)
「条約が禁止しているのは全てのクラスター爆弾の製造、保有、使用、移転です。」

コリン・キング(爆弾除去専門家)
「この条約は全く時代に左右されない恒久的なクラスター爆弾に対する最新の条約です。われわれが直面している問題の解決に相応しい非常に挑戦的なものです。」

ドン・マッケイ
「この条約は世界でも極めて創造的なものです。クラスター爆弾問題を創造的かつ継続的に対象として行きます。この条約は全てのクラスター爆弾を対象にしています」

この条約はいかなる状況においてもクラスター爆弾の使用、生産、貯蔵、移転を禁じている

ドン・マッケイ
「また、この(クラスター爆弾禁止)条約は非常に優れた条項を備えています。つまり、条約の規定には、貯蔵クラスター爆弾の8年以内の安全な廃棄、不発のクラスター爆弾の存在する国の除去に関して他国の支援を得られることももちろんですが、それらの10年以内の除去、また強力な犠牲者支援の条項もあります。」

3条 貯蔵しているクラスター爆弾は8年以内に廃棄
4条 クラスター爆弾の残存不発弾の除去は10年以内
5条 犠牲者と地域の支援

コリン・キング
「クラスター爆弾禁止条約そのものが現実的であろうとなかろうと、実際、ある種の政治的な意図に負っているのです。非常に政治的な話し合いがありました。多くの点について厳しい話し合いがなされましたが最終的に条約にたどりついたのです。クラスター爆弾の使用を止めるのに必要な財源は高額になり、貯蔵クラスター爆弾廃棄にも、広範な地域から不発子爆弾を取り除くにも多額の費用が必要となります。その通りです。私はこの条約は現実主義的だと思います。我々はクラスター爆弾禁止の義務を受け入れる方が安くあがると考えています。」

ドン・マッケイ
「この条約はクラスター爆弾とクラスター爆弾禁止条約に参加していない国々を非難しています。我々は条約に参加していない国々に出来る限り速やかに条約に参加するよう圧力を加え、呼びかけるものです。現実には100ヶ国が条約に参加し、クラスター爆弾を非難しています。そして30ヶ国の批准で発効します。」

ジム・バーク
「軍人というものは一般的に現実主義者です。非難を浴びたくないのです。彼らは国際的に非難されているクラスター爆弾を使用するよう強制されたくはないのです。クラスター爆弾使用によって非難されたくないし、また人道法に背いているとも言われたくありません。」

ピーター・ハービー
「軍隊はありとあらゆる武器を使用します。それでも議論の的になった化学兵器は人道法により数十年まえから禁止されています。政治家はある種の兵器は(受容の)限度を超えていると言わねばなりません。また、政治家は人的被害が一定以上で禁止されるべきだと人道法の基本法で定められた武器の禁止決定をすべきです。

筆舌に尽くし難い人的被害を防ぐ機会というものはそう何度もない
今こそ行動の時だ
今こそ批准の時だ
今こそ条約の履行の時だ
クラスター爆弾禁止条約を
                                     (DVD鑑賞ここまで)

 それではここから北川代表のお話に入っていただきます。

 ご紹介いただいたJCBL(日本地雷廃絶キャンペーン)の北川泰弘です。JCBLの組織と活動についてはJCBLのパンフをご覧ください。

 DVDからの翻訳には相当なご苦労があったと思います。感謝します。さて、私はずいぶん前ですが名古屋で仕事をしていたことがあり、広小路周辺は今でも懐かしく感じられます。今までに何回か白井さんのご依頼で名古屋に伺って対人地雷やクラスター爆弾についてお話してきました。そんな訳で今日お集りの皆さんの中には顔見知りも多く、気楽にお話ができます。

 今のDVDでクラスター爆弾とその禁止条約についてかなりの説明がありましたが、まず対人地雷について少しお話しておきます。実は今年3月1日で対人地雷全面禁止条約が発効して10年目になります。1998年秋に99年3月1日の対人地雷禁止条約発効を記念してポスターを募集したところ、今日参加いただいている柴田知佐さんが最優秀賞に選ばれ、小渕総理大臣に作品のポスターをお手渡しいただきました。あの時はご苦労様でした。さて、10年目を記念しまして、2月下旬から3月上旬にかけて、世界中で「グローバル・アクション」という記念行事を実施します。対人地雷問題についてももう一度キャンペーンを盛り上げる活動です。私は先ほどご紹介いただいたようにJCBL(日本地雷廃絶キャンペーン)から来ました。JCBLの組織と活動につてはJCBLのパンフに詳しく説明されています。(JCBLパンフ示して)
 さて、JCBLが対人地雷全面禁止条約発効10周年を祝って行う行事は二つあります。ひとつは条約の理論化です。これについては運営委員の目加田説子と佐高信さんという文筆家の方とのトークショウを東京の「東京堂」という本屋さんで2月25日にやります。題名が「平和の論理と爆弾の非論理」と言います。少し難しいですね。(新書本を示して)これは最近岩波新書でも出版された爆撃についての本です。第二次世界大戦中に考えだされたことですが、第一次大戦のように地上で兵士同士が戦うよりも(1914年から1918年の間にフランス軍だけで毎日2000人が戦死したと言われている。)、一般市民を対象とした無差別爆撃を行い、相手国の市民の嫌戦気分を煽って勝つほうが経済的だという考え方です。東京大空襲とかハンブルクの無差別爆撃の一般人を目標にするという考え方です。今言われているクラスター爆弾の非人道性に通じるものです。そういうトークショーをやろうというものです。(実際のトークショウではそのような話は出なかった。)

 もう一つは世界に日本の対人地雷禁止運動を発信しようと企画されました。長野県にある浄土真宗本願の夜間照明のもと、シンポジウムを行い、ろうそく千本の光りで「MBT(Mine Ban Treaty10 対人地雷禁止条約10年)を浮かび上がらせて遠くから写真を撮って、その雪の中のお寺とろうそくの文字の写真を世界に配信しようというものです。これを3月6日に実施できるよう、今、ろうそくを入れる瓶を集めて準備しています。JCBLの活動はあくまで人道的な立場で、非人道的な無差別兵器(対人地雷など)をなくそうとするものです。人道以外の政治、思想や宗教とは関わらないで、中立的な立場で非人道的な兵器をなくす運動を展開しています。
明専寺 ろうそく(Mine Ban Treaty 10)


 もともと対人地雷から始まった運動がなぜ、クラスター爆弾も対象にしているのかと言いますと、クラスター爆弾は不発弾が多く出てそれが地雷化し、人々に脅威を与えます。また、そもそも空中から落とされた時に軍事的目標からそれて一般市民に被害を与え、落下して爆発しなかったクラスター爆弾が対人地雷化して脅威となります。そういう意味でもクラスター爆弾は無差別です。また、先ほど観たDVDのオレンジ畑がクラスター爆弾の不発弾のために収穫が出来なくなってしまったように、社会的経済的にも被害を与えます。例えばクラスター爆弾があるからビルが建てられない、学校が建てられないというような事も起こります。こうした理由で私たちはクラスター爆弾禁止の運動に参加しました。

 先ほどクラスター爆弾禁止条約を作る運動がつい2年ほど前から始まったと申し上げましたが、JCBLとしてはオタワ条約が発効した10年前(1998年)にクラスター爆弾の怖さを訴えるシンポジウムを東京YMCAの会議室にセルビアのヤンコビッチ書記官にお出で願って開催しました。その後もJCBLは何回もクラスター爆弾のシンポジウムをやってきました。ですから、今回クラスター爆弾禁止条約が出来たということは、JCBLとしては10年来の努力が実ったということです。

 そこで、お手元にある資料のように、クラスター爆弾と対人地雷はどこが同じでどこが違うかを観て行きます。まず、無差別性ということは同じです。戦争中のみならず、戦争が終わったあとも被害が続くということも同じです。違うのは、地雷はとても値段が安いのです。ですから、ゲリラなどのいわゆる武装勢力も使います。ところがクラスター爆弾は非常に高価ですからゲリラなどには使えません。

さて、クラスター爆弾の変遷についてお話します。資料をご覧下さい。まずは「榴弾」です。榴弾は敵の兵士をやっつけるために砲弾の中にパチンコ玉みたいなものを入れたもの、あるは砲弾の外皮が割れて破片になって人を傷つけるというものです。手榴弾というものがありますね。私が学生の頃は戦時下で手榴弾を投げる訓練なんかも有りました。ちょっと重くて私だとせいぜい30メートルくらいしか飛ばなかったです。その手榴弾は30メートル先で爆発して破片で敵をやっつけるという代物でした。手榴弾は人が見えるところで使う訳です。

 さて、資料の第0世代というのを見てください。これはオランダ軍が手榴弾を束にして、迫撃砲で遠くまで飛ばしたという記録があり、これがクラスター爆弾の始まりだと言われています。その後、第1世代、第2世代へと続くのですが、この分類は私が勝手に付けたものです。
 第1世代は、日本の木造家屋用に「焼夷弾」、石造りのドイツの家屋用には爆発して玉が飛び散るものを束にして爆撃したものを指します。いわゆる「絨毯爆撃」に使われました。先ほど申し上げたように前線で戦うよりも、相手国の都市を破壊したほうが早く勝てるという考え方でやった爆撃で、1943年から1945年にかけて行われました。
 さて、第2世代というのは、兵隊の群れを攻撃するもので、ICM(Improved Conventional Munition 改良型通常弾)と言って、外皮の鉄の素材を改良して数百の破片や内蔵されたパチンコ玉が飛び散って敵の兵士を殺傷するというもので、主にベトナム戦争で使われました。爆弾の名前がAO-1-SH、BLA-63Bなどがありますが、最も悪名高いのがBLA-63Bでボンビーズと呼ばれました。写真でみていただくと丸い野球のボールのような形状が分かると思います。第2世代は目標が人間なのです。
 第3世代は地上で行動している戦車隊とかトラックの行列とか飛行場から飛び立とうとする飛行機を攻撃するDPICMというものができました。DPとは(Dual Purpose)で二つの目的という意味です。実際には複合効果で三つの効果があります。このタイプには対装甲焼夷弾があります。ところで、第2世代は先ほどお見せした小型の黄色い円筒形のものでしたが、第3世代では大きなシリンダー型です。写真のように筒状のものが落下傘で弾頭を下に向けて降りてきて、まず弾頭が戦車の装甲に当り装甲を打ち抜きます。戦車の中に入った弾は内部で爆発し、破片、榴弾を散乱させて、敵兵を殺します。また、焼夷効果で内部の弾薬や燃料に引火して誘発させます。第3世代には前期と後期がありまして、後期のものには風に流されないように風向修正装置がついています。
 第4世代はオスロ条約で禁止されていないものです。ご覧いただいている一覧表に○と×がつけてありますが、以下のものだけが第4世代とわかっています。BOUNUS-SMN(フランス製)、SAPITAL(アメリカ製)、SMART(ドイツ製)の3種類です。どういうものがオスロ条約で禁止されないかと申し上げますと、1つのクラスター爆弾の中に10個未満の子爆弾しか内蔵していないもの、子爆弾の重量が4kg以下のもの、目標を探知しその目標に向かうように設計されたもの、電子式の自己破壊装置のついたもの、自己不活性化のための機能を持っているもの、これらを全て備えているものはオスロ条約の対象としないと定められています。今見てきたようにクラスター爆弾は変遷してきました。

 ここで対人地雷とクラスター爆弾の共通点と相違点を見てみます。無差別性と戦争後に市民の脅威になることは共通点です。異なる点は対人地雷が安価であることに対し、クラスター爆弾が高価なことです。言い換えれば、貧乏な国でも使える対人地雷と富裕な国しか保有できないクラスター爆弾となります。またクラスター爆弾は対人地雷よりずっと敏感なため、クラスター爆弾除去の際には対人地雷除去の場合よりずっと多くの事故が発生します。私が聞いたところによると、対人地雷除去チームとクラスター爆弾除去チームは別になっています。クラスター爆弾除去には専門チームが必要なのです。例えば、対人地雷は地中に埋まっていますが、クラスター爆弾は空から降ってきますので、パラシュートが木の枝に引っかかっていたり、屋根を突き破ったクラスター爆弾が屋根裏部屋にあったりする場合もあります。つまり、対人地雷は平面的に探せばよいのだが、クラスター爆弾は立体的に探さなければならないということです。条約についてですが、対人地雷はこれからの戦争には不要だということで案外簡単に対人地雷全面禁止条約が出来たのですが、クラスター爆弾については技術的にまだ戦争で有効だと見なされていたため、禁止を受け入れない国が多くあったのです。

 解決の道筋についてお話します。対人地雷禁止については、オタワ条約に従って2004年にナイロビで締約国による検討会議が開かれいわゆるナイロビ行動計画が2005年〜2009年の間で策定されました。その実施で対人地雷禁止を推進しようと決めたわけです。今年11月には南米コロンビアで第2回の締約国会議が開催されます。その時にナイロビ行動計画がどれほど実行されたかを検証する予定になっています。現状では被害者数はかなり減少しています。また埋設地雷除去が終了した国も増えていますが、嘆かわしいことにナイロビ行動計画により2009年までに埋設地雷除去を終了しなければならないのに終わっていない国がまだ15ヶ国もあります。いずれの国も期限の延長を申請していますがこんなに多くの国が期限を守れないのは何とも残念なことです。

 さて、クラスター爆弾の禁止についてですが、これはオスロ条約の締結が課題です。昨年(2008年12月)に多くの国が署名しましたが、発効させるには30ヶ国以上の批准が必要です。30カ国以上が批准することを目指して働きかけをして行かなければなりません。つまり、クラスター爆弾禁止条約は出来たけれど、30ヶ国が批准するまでは効力は発生していないのです。それで私たちJCBLは日本政府に早く批准するよういろいろ働きかけています。批准するには国会が承認しなければならないのですが、そのためには外交委員会が開かれなければなりません。外交委員会は予算委員会が終わらないと開かれない仕組みです。ちなみに今予算委員会が開催中です。それで、予算委員会が終わって外交委員会が開かれたら早く批准してくださいと国会議員にお願いしているところです。また、オスロ条約の履行の報告・監視などがありますが、私たちJCBLとしてはもし日本政府が条約を批准して発効するようになったなら、履行状況を監視することに力を入れようと思っています。日本政府が条約で決められた期限までに手持ちのクラスター爆弾を廃棄するかどうかを見守らなければなりません。今日お集りの皆さんの中にも、日本政府が対人地雷を廃棄した時にその見学にいかれた方が何人か居られると思いますが、クラスター爆弾についても履行状況の監視が必要だと思います。

 もう一度ここでクラスター爆弾の変遷についておさらいをしておきますと、最初は人を狙う目的でした。それで破片を四方八方にばらまくよう球体をした子爆弾でした。それ後戦車その他の車両を狙うものが開発されるようになって、形状も円筒形になり、戦車などの排気管から出るガスの熱に導かれて命中するものが出てきました。また、目標を的確に捉えるよう風に流されないように風向修正装置が付いたものが開発されました。
 クラスター[爆弾禁止条約について見てみる事にします。資料2〜4をご覧ください。クラスター爆弾禁止条約は条文がたくさんありますので今回は一部をご覧いただく事にしました。日本語訳の正式なものはまだありません。今回お見せするのは外務省の仮訳です。12月3日に署名する際に閣議で説明する資料として作られたものです。ですから、国会で審議するための翻訳はこの仮訳を元に間違いを正して作成されますが、現在手に入る最高のものです。全部見るのは大変なので資料の3を見てください。これは日本政府も参加したダブリン会議で5月30日に採択された内容をJCBL代表して参加した目加田説子が作成した報告書です。これを借用してクラスター爆弾禁止条約の特徴を申し上げますと、この条約は2008年のダブリン会議で5月30日に全会一致の107カ国の賛同で採択されました。この特徴は前文の中で障害者の権利条約を尊重するよう留意するとある点です。もうひとつは戦争の女性に対する影響に留意するとしています。さらに戦時下の児童の保護にも留意すると言っています。これらは対人地雷全面禁止条約には何も触れられていません。その点は資料2に書いておきました。
 ところで、問題は先ほど申し上げたようにクラスター爆弾が戦術上まだ有効だとみなす国があることです。会議で一番もめた点はクラスター爆弾禁止条約に参加した国と参加していない国が共同作戦をした場合にどうなるかということです。具体的に言いますとアメリカ軍と日本の自衛隊が共同作戦をした場合、アメリカ軍とイギリス軍が一緒に戦争をした場合どうなるかというものです。これはたいへんもめました。そしてダブリン会議の最後になってクラスター爆弾禁止条約21条が出来ました。21条は資料2の8ページにありますがすべてを詳細に説明するのは大変ですから、かいつまんで説明しますと、締約国と非締約国が一緒に軍事行動をする場合について述べています。まず前半で、条約に参加している国は参加していない国に条約への参加を勧誘することと書かれています。次に共同作戦をする場合、条約に参加していない国が行う作戦行動に条約参加国が協力することは許されると書かれています。これは少し条約の趣旨に矛盾していますが、ここに書いてあるように締約国の軍隊および国民は、締約国に禁止された行動を行う非締約国に軍事協力および行動に従事することはできる。但し、締約国自身がクラスター爆弾を開発、生産、取得、貯蔵、移譲、使用することは認めないとしています。具体的に言いますと、アメリカのクラスター爆弾が日本国内の米軍基地に備蓄される、クラスター爆弾を艦載した軍艦が日本に寄港することが出来るという風に解釈できるということです。この21条を付け加えたことによってクラスター爆弾禁止条約に107ヶ国が賛成するに至ったということです。NGOの立場からは、CMCがその代表なのですが、こういう矛盾は有るにせよ、随分と前進した条約ができたと高く評価しています。21条のことを「相互運用性」と呼んでいますが、それがあってやっと条約が成立した訳です。ですから全会一致とは言うものの条約の成立には非常にいろいろな妥協点があった。つまり自分の主張を曲げ、妥協をしながらできた条約ということです。

 もう少し条約の主な問題点に触れてみますと、第2条が定義なのですが、次の5条件を全て満たすものを例外とするとしています。
1-収容する子爆弾の数が10個未満であること
2-子爆弾の重量が10キログラム以上であること
3-目標を識別して攻撃する機能が付いていること
4-電子式の自己破壊装置付きであること、自己破壊装置というのは不発になった時に自らを爆破する装置です。これには機械式と電子式があります。条約では機械式は認めず、電子式のもののみを認めています。5-電子式自己不活性機能を備えるものと有りますが、これは例えば、爆破装置が電池で作動するようになっていてその電池がなくなると爆破装置が作動しなくなるようなものです。
 加重方式でこういった条件の全てを満たすもののみが除外されるとしたのです。それで、先ほど見ていただいたようにドイツ製のSMART-155とフランスのBOUNUS-SMNはこの条件を満たしていますがそれ以外は全て禁止の対象になるということです。そういう訳で例外は一部あったのですが、NGOの立場から言いますとクラスター爆弾の99%は禁止することができたという評価です。それから貯蔵・備蓄クラスター爆弾の廃棄は自分の国で条約が効力を発生してから8年以内に完了するように定められ、延長はその後4年までは認められています。備蓄クラスター爆弾は弾薬倉庫に入っているものですが、不発になって地表に転がっている不発クラスター爆弾の除去期限は10年以内と定められました。もし期限内に除去できなければさらに5年の延長が認められています。
 犠牲者支援について言いますと、対人地雷禁止条約の経験に基づいてNGOが随分努力した結果、非常に強い言葉が入っています。例えば犠牲者支援を第5条に独立して設け、被害者への援助を締約国の義務としました。対人地雷全面禁止条約では第6条の国際協力の一部分として、締約国は、可能な場合には、被害者への援助を提供することと書かれていました。クラスター爆弾禁止条約では独立して5条になりました。日本とか援助の出来る国は援助をしなければならないと義務にしました。援助の実施とその報告義務が定められました。対人地雷全面禁止条約では義務ではありませんでした。犠牲者の定義についてですが、対人地雷禁止条約では被害を受けた本人だけが犠牲者なのですが、クラスター爆弾禁止条約では犠牲者の家族、そしてそのコミュニテティーも犠牲者であるとし、それに対する援助が必要だとしました。  データ収集の面では従来クラスター爆弾の被害者は不発弾の被害者と一緒に分類されてきました。そのためクラスター爆弾のみの被害者数はわからなかったのです。条約ではクラスター爆弾被害者数をだけを抜き出すよう求めています。それと、第7条に透明性の報告義務があります。対人地雷全面禁止条約では埋設地雷と備蓄地雷の除去、廃棄状況を報告するよう求めていますが、犠牲者支援の報告は求めていませんでした。クラスター爆弾禁止条約では犠牲者支援についても報告を求めることになりました。一番問題になったのは「移行期間」です。クラスター爆弾を禁止するけれどもすぐの禁止ではなく、準備ができるまでに移行期間を置こうとドイツや日本が主張したのですが、いろいろ議論されて移行期間は設けないという事に決まりました。つまり、すぐ禁止ということになったのです。資料の3ページを見てください。そのことが書かれています。

 ここで日本政府の態度についてお話します。2007年2月にオスロで初めてのクラスター爆弾禁止条約の会議があってオスロ宣言というものが出されたのですが、日本、ポーランド、ルーマニアの3ヶ国だけがそれに署名をしなかったのです。私たちJCBLは非常に恥ずかしい思いをしました。翌年2008年2月にウェリントン宣言が出た時にはそれに署名しました。2008年5月のダブリン会議の時には、移行期間を設けよとか、相互運用性を設けてアメリカと協力出来るようにしろ、などと色々主張してクラスター爆弾禁止条約に参加する態度を見せていなかったのですが、5月28日に福田総理大臣(当時)の政治的判断で賛成することに決定した訳です。これは朝日新聞がすっぱ抜いたのですが、英国、フランス、ドイツが賛成したこと、先ほど説明した21条が加わったことで日本も態度を変えて参加したというものです。今後は批准をしなければならない訳ですが、そのためには国内法の整備が必要となります。さらに保有する4種類のクラスター爆弾がすべて禁止の対象になるので、それらを廃棄しなければなりません。そこで現在自衛隊がどんなクラスター爆弾を持っているかを見てみます。資料5を見てください。クラスター爆弾の説明をおさらいしますと、内蔵する子弾を空中で広範囲に散布する仕組みを持つ爆弾です。(写真を見せながら)個別に見て行きますと、大砲で撃つもの、ロケットに載せて発射するもの、飛行機で空中から落とすものですが、飛行機から落とすものは子弾を内蔵した親爆弾が敵の上空で子爆弾をばらまくものと、ディスペンサーと呼ばれる子弾を内蔵して飛行機に固定された容器から直接子爆弾をばらまくものに分かれます。つまりクラスター爆弾には4種類がある訳です。日本では飛行機から落とすのは航空自衛隊が保有しています。砲弾とロケット弾は陸上自衛隊が保有しています。MLRS M26ロケット弾と多目的りゅう弾は陸上自衛隊、CBU-87/Bクラスター爆弾と70ミリ対戦車ロケット弾(ASR)は航空自衛隊が持っています。自衛隊はこれら全てを今後廃棄しなければならないのです。ちなみにM26ロケット弾は調達総額が41億円、CBU-87/Bクラスター爆弾は148億円、多目的りゅう弾が46億円、70ミリ対戦車ロケット弾が40億円となっています。全部で276億円になります。これだけの費用をかけて買ったものをすべて破壊しなくてはならないという事で大変です。(ここで参加者から質問:どうして8年間も廃棄するのに猶予期間があるのですか。)はっきりとは分かりませんが、おそらく会議の中でもっと長い時間が必要だと主張した国があり、もっと短い時間で良いといった国もあってその中間を取ったのではないでしょうか。(白井:ドイツにクラスター爆弾の廃棄を専門にしている会社があって既に実施中ですが、処理が難しくそれほど迅速には進んでいません。)日本の対人地雷処理について申し上げますと100万個あった対人地雷を処理した時には1年に付き25万個ずつ廃棄して4年で終了しました。国によっては対人地雷を人のいない場所に積み上げて爆発させるという方法で処理した国もありますが、狭い日本ではそういう事もできませんので、人里はなれた場所にコンクリートで囲いを作り、爆破処理しましたが、爆破した時のガスが民家に行かないように、また爆発音が聞こえないように細心の注意が払われました。当然一度に大量の対人地雷を処理することは出来ませんでした。(ここでさらに参加者から質問:一つ確認したいのですが、自衛隊のクラスター爆弾は当然外国で使えませんから国内で使うという事なのですね。)日本は憲法の規定がありますから外国を攻撃できません。(先ほどの質問者:という事は日本人に対して使うのですね。)いや、資料を見ていただくと着上陸時のイメージというのが有ります。敵が日本の長い海岸線のどこかに上陸して攻めてきた時に、それを撃滅するためにクラスター爆弾を使うというのが、自衛隊が保有している理由なのです。このイメージ図のように上陸した敵に飛行機やロケット弾でクラスター爆弾を投下して撃滅するという事です。(白井の説明:その件については国会でも議論されたのですが、クラスター爆弾を使用する条件として全ての日本人を避難させておいて使用すると防衛大臣が答弁していますが、実際にはそれは不可能だと批判する意見があります。さらに不発のクラスター爆弾の問題ですが、戦闘が終了した時に非難した市民が戻ってくる前に自衛隊の爆発物処理班が完全に安全な状態に復元する旨の答弁もしていますが、これが本当にできるのかは疑問です。そういう意味では先ほどの『日本国民に対して使用する』という事態も現実になるのではないかと危惧されます)政府はクラスター爆弾を使用するに際しては自衛隊員が近くの住民をすべて避難させてからと言っています。また、避難した住民が戻って来る前には自衛隊が完全に不発弾を処理し、安全を確保すると言っています。ですが、津波警報の時に避難命令に従わないで避難しない人がいました。また身体障害者など動かせない人もいます。そういう人たちをどうするかという問題はあります。
 それから、不発のクラスター爆弾除去についてもそんなに簡単ではありません。レバノンでは未だに除去が終了していません。去年(2008年)JCBLがお招きして、いろいろお話を伺ったカペタノビッチさんはクラスター爆弾除去の専門家でしたが被害にあっています。彼は、クラスター爆弾は攻撃に使うための武器であって、防御のために自分の国で使用した国は皆無だと言っています。彼に言わせれば、自らの国にクラスター爆弾を投下する馬鹿な国などあり得ないのです。不発弾がたくさん残って自国民を殺傷しますから。ここで、私の個人的見解を申し上げます。自衛隊がクラスター爆弾を購入したのはアメリカの古くなった武器を押し付けられたのだと思います。購入の理由を作るために、防衛のためという理屈を考えたのでしょう。実際にアメリカのヒューマン・ライツ・ウォッチという団体が出した書類によりますと、アメリカは1990年頃に旧式になった武器を大量に友好国に輸出しています。日本もその時にクラスター爆弾を購入しています。要りもしない武器(クラスター爆弾)をわざわざ理由をつけて購入したとしか考えられません。

 次にクラスター爆弾禁止条約成立の意義についてお話します。いろいろな見方がありますが、資料4をご覧下さい。毎日新聞の昨年(2008年)10月4日の朝刊にノルウェーの防衛政務次官の会見記事が掲載されました。それがとても分かりやすいので紹介します。まず、1番目に国連の垣根を越えたノルウェーなどの有志国政府とNGOの協力によって実現したことです。特にNGOは専門知識が豊富で正確な情報を持つ能力のあるプロである。条約成立はここ10年来無かった成果である。NGOの方がプロで専門知識が豊富だということです。第2番目に107ヶ国が賛成したという事はクラスター爆弾を使用することは良くないことだという国際的な規範が出来たということです。だから、条約に参加しないアメリカ、ロシア、中国等もこの国際規範を尊重せざるを得なくなるだろうということです。条約が採択された後、2008年8月にロシアとグルジアがクラスター爆弾を使用したことは大変残念なことではあるけれど、双方とも相手がクラスター爆弾を使用したと非難しています。ということはクラスター爆弾使用が違法であるということを認識しているからだろうと判断できます。そういう意味でも条約採択の意義はあったと言えます。
 もう一つ、オスロ条約が5月30日に採択されたのは絶好のタイミングだったのです。もしこれがブッシュ政権の1期目だとかグルジア戦争の後だったらこの合意は難しかっただろうと思われ、まさに絶好のタイミングで条約が成立したのでした。クラスター爆弾が最も使用されたのはベトナム戦争時代のラオスでした。ラオスの状況を訴えてもなかなかクラスター爆弾禁止条約は成立しなかったのですが、イスラエル軍が2006年8月に大量のクラスター爆弾を使ったという事が世界中で知られて条約成立を加速させ、合意を促したと言えます。
 また、対人地雷禁止条約の際には各国の防衛担当者との事前打ち合わせが無かったために交渉が難航しましたので、クラスター爆弾禁止条約の策定作業では、その教訓に基づき防衛担当者も協力したということです。それと、軍事的見地からクラスター爆弾をこれからも保有すべきだとする意見もありますが、もうクラスター爆弾を使って大量の子爆弾をばらまく絨毯爆撃の時代ではなく必要ないとする意見もあります。現在求められているのは、より狭い範囲を攻撃する、要するに目標を自分で選んで効率的、経済的に攻撃することが求められるようになったのです。それで、クラスター爆弾という兵器が無くても防衛は出来るという考えが出てきたのでした。

(ここで15分のお休みを入れた)

 ここでクラスター爆弾という言葉について考えてみます。クラスター爆弾と言っても、空から飛行機で落とすもの、ロケット弾や砲弾で打つものに分かれます。英語では実はCluster Bomb とは言いません。Cluster Munitionと言います。そこでJCBLの中で話した時、私が「Bomb」というと空から落とすものだから、ロケットや砲弾で撃つのはCluster Munitionクラスター弾と訳すべきではないかと提案したのですが、JCBLの他のメンバーは弾では爆発のイメージが湧かないからやはりクラスター爆弾と呼ぶべきだと譲りませんでした。日本政府の翻訳ではクラスター弾子弾と訳しているのに対し、JCBLはクラスター爆弾、子爆弾と訳しています。もう少し細かいことをいいますと、定義の第2条の3の政府訳を見ますと、「爆発性子弾とはクラスター弾から散布され」とあります。また、同上13で「爆発性の小型爆弾とは」という言葉が出てきます。その下に続けて「ディスペンサーから散布され」と書いてあります。英語の原文で見直してみますと、爆発性子弾はExplosive Sub-munitionとなっています。爆発性小型爆弾はExplosive Bombletとあります。この条約では親のクラスター弾から放出されるものは「子弾」であって、飛行機に取り付けられたディスペンサーから散布されるものは「小型爆弾」だと定義しているようです。ところが我々JCBLは全てを子爆弾と言っていますからこの区別がつかないということです。翻訳がどちらが正しいかは難しいところです。今申し上げたのは「子爆弾」と「小型爆弾」、「クラスター弾」と「クラスター爆弾」で政府とJCBLの間で翻訳の違いがあるというお話でした。

 それでは本日の本題に入ります。資料の6を見てください。クラスター爆弾禁止条約の問題です。一つは自衛隊の保有する合計276億円のクラスター爆弾の廃棄をどうやって行うかという事です。現在自衛隊は廃棄の方法を研究中です。そのための予算を計上したところです。これから研究する訳です。そこでクラスター爆弾の代替兵器の開発という問題が出てきます。当初フランスのBOUNUS-SMNなどを購入するのではないかと言われていましたが、昨年の防衛大臣の答弁によりますと代替兵器は開発しないようです。それでは何によって防衛するのかと言う事ですがはっきりとしません。今問題になっているのはクラスター爆弾の廃棄です。もう一つの問題点を申し上げます。それは条約に抜け穴があって、ある種のクラスター爆弾の使用が認められるのではないかという事です。確かに子爆弾が10個以下のものは禁止の対象になっていません。それなら子爆弾が10個以下のものを同時にたくさん使う事になれば問題ではないかという点です。もちろんその場合には費用は莫大なものにあるでしょう。どうなるか分かりません。さらに、単一の攻撃目標を探知し攻撃するよう設計されたクラスター爆弾の使用は禁止されていませんが、そのように設計したけれど設計通りに機能しなかったらどうするのかという問題もあります。機能を検証する方法や基準は禁止条約で決められていません。設計したけれどその通り機能するか検証する方法がないので問題です。同様に電子式の自己破壊装置のついたもの、自己不活性化のための機能を持っていても作動しない場合にはどうするかですが、これも検証する方法や基準が定められていません。また、クラスター爆弾を禁止することによって日本の国防が弱体化するという意見もあります。クラスター爆弾は攻撃にも防御にも使える汎用性の高い武器だという主張、一回の攻撃で最大の効果を得るのに最も適した兵器だと言う主張、また、クラスター爆弾は時代遅れの兵器だというが、伝統的な戦争形態においてはまだ有用性は失われていないという意見、欧米諸国は防衛省資料にあるように、クラスター爆弾を禁止しても周囲が締約国だから問題ないが、日本は北朝鮮、韓国、中国といった非締約国に囲まれているのでクラスター爆弾の必要性はあるという意見もあります。さらにクラスター爆弾禁止条約は我が国の現行法制度に矛盾するという意見があります。これは先ほどの資料2を見ていただくと第5条に被害者に対する援助ということが有ります。締約国は自国の管轄または管理の元にある地域に所在するクラスター爆弾による被害者について適用可能な国際人道法および国際人権法に従い、年齢および性別に配慮して援助(医療、リハビリテーションおよび心理的支援を含む)を適切に供し、ならびクラスター弾による被害者が社会的および経済的に包含されるようにするとあります。つまり、クラスター爆弾の被害を受けた人を援助するのは、その被害を受けた国の政府が援助するのではなくて、その人が住んでいる国の政府が援助しなければならないということです。もし、クラスター爆弾被害を受けた人が日本に入国したら日本政府がその人を援助しなければならないということです。ところが日本の法律によると日本政府が医療の援助をする対象は日本の国籍をもった人だけです。難民とか不法に日本に滞在する人々は日本政府の医療を受けられません。クラスター爆弾被害者が法律に反して日本に入国した場合に特別に医療の援助をするのかという問題があります。これについて外務省に尋ねましたが、答えはクラスター爆弾被害者のみ例外的に医療が受けられるような仕組みを作ることを検討中だということです。クラスター爆弾被害者の不法入国者と他の不法入国者との間に差を設けることになり重大問題です。こういう問題もあります。その他にも批准するにあたっても日本の法律に抵触する場合があると思いますが1例としてこのような事が考えられます。(白井から生活保護の医療扶助が日本国籍を有しない長期不法滞在者に適用されることがあるという報告を追加した)

 さて質疑の時間に入りますが、昨年JCBL運営委員の目加田、清水、内海がオスロに出かけた時の映像がパワーポイントにまとめてありますので、今日のお話の復習を兼ねて見ていただきます。クラスター爆弾禁止条約の調印式の写真も入っています。

(準備に時間がかかるということで待ち時間に質問を受け付けた)

 (質問)近く京都で対人地雷のこどもサミットを開く予定ですが、対人地雷全面禁止条約にもクラスター爆弾禁止条約にも参加していない国が有ります、恐らくそれぞれの国のいろいろな事情があると思いますが、こども達は単純にどうして全ての国が参加しないのだろうかと疑問を持つと思います。それに対して分かりやすく説明するにはどうしたらいいでしょうか。アメリカやロシアがどうして参加しないのと聞かれたらどう答えるのが分かりやすくていいでしょうか。
 (答え)それにお答えするについて、今日配布した資料の一部を説明させていただきます。クラスター爆弾禁止条約を作る作業はノルウェーが中心となったのでオスロ・プロセスと言います。実はクラスター爆弾禁止について条約をつくろうとする別の場があります。国連のCCW(特定通常兵器制限交渉)という枠組みです。ここですでに長い事クラスター爆弾禁止についても議論してきたわけです。CCWにはアメリカもロシアも中国も皆参加しています。日本政府もそういった国が参加しているCCWで禁止条約を作った方が良いという立場で熱心でした。しかしこの会議は資料にあるように2006年11月に開催されたCCWで2007年にクラスター爆弾禁止について議論するという事を決めただけでした。つまり2006年にはクラスター爆弾禁止条約は作れなかったということで、2007年にも議論を続けようという事が決まっただけだったのです。そのためにCCWに見切りをつけた有志国だけで禁止条約をつくろうとしてオスロ・プロセスが始まったのです。つまり、議論ばかりしていて条約を作らない国は除外して、賛成する有志国だけで条約をつくろうとしたのです。CCWは現在どうなっているかと言いますと2007年も結論が出ず、2008年に交渉を持ち越しました。2008年には5回も交渉が行われました。一応議定書案(条約案)が出来たのですが、それが否決されてまたしても2009年に交渉継続となりました。ずっと交渉ばかりやっていてまとまらないのです。もともとクラスター爆弾は有効なのだという国がCCWには入っていますから議論がまとまりません。しかもCCWは国連の会議ですから全会一致でないと条約は成立しません。ところがアメリカ、ロシアや中国は拒否権が行使できます。これではまとまるはずもありません。いつ条約が成立するかまったく分かりません。そこで有志国が多数決方式でクラスター爆弾禁止条約を作ったわけです。対人地雷禁止条約の経験からして、多数で条約を作ってしまえば参加していない国もその国際機範に従わざるを得なくなるのです。対人地雷の先例をクラスター爆弾禁止条約でも目指したのです。これがこども達への解答になるか分かりませんが、経緯です。

 (この後パワーポイントの映像でクラスター爆弾について説明をした。以下に主要な説明を記述)
*  クラスター爆弾被害の惨さ(惨い傷口、治療が困難な傷)
*  同上の人道問題(広範囲に被害を及ぼす、無差別に殺傷、不発弾の地雷化)
*  最大の被害者(子どもの注意を引きやすい形状、色ゆえ)
*  処理が困難(地雷よりずっと敏感で爆発しやすく処理が困難-復興の障害)
*  クラスター爆弾残存の状況(無造作に農地に転がる、鉄条網に引っかかったもの)
*  同上生産国-少なくとも29ヶ国、使用している国-23ヶ国、保有国-少なくとも75ヶ国
*  同上の使用された国(1990年以降-イラク、アフガニスタン、コソボ、レバノンで大量に使用)
*  今後の課題(非参加国への参加呼びかけ、犠牲者支援、除去の国際協力、国内法整備、モニタリング)

(再度質疑に戻る)

(質問)鉄条網や、木の枝に引っかかったクラスター爆弾の除去はどうやってするのでしょうか。
(答え)はっきりした事は分かりませんが、1例として読んだ話で、地上に転がっているクラスター爆弾をまたぐように三脚を立て、火炎放射器のようなものを設置し高温の炎で焼いてしまうという方法もあるようです。

(質問)日本政府に対して早期批准を働きかける署名運動などは予定していますか。
(答え)予定していません。外務省も国会議員も非常に熱心に批准に向けて作業をしています。署名の必要は無いと思います。

(質問)先ほどはクラスター爆弾禁止条約の問題点を日本についてお聞きしましたが、世界的な視野からの問題点を教えていただけますか。
(答え)廃棄の問題と、抜け穴の問題は世界共通の問題と言えると思います。

(質問)私自身は白井さんの講演会に何回か参加して対人地雷のこと、クラスター爆弾のことについて理解が出来て来たと思いますが、もっと広くJCBLが一般市民向けにこれらの問題について語りかけている活動と今後の活動について教えてください。また、個人的にまったく知識が無い人にクラスター爆弾のことを説明する時に簡単明瞭に言うとしたらどういう風に言ったら良いかアドバイスいただきたいのですが。
(答え)答えとしては、クラスター爆弾の不発弾は地雷化して一般市民を傷つけ、社会の復興を阻害するからなくさなければならないということです。今日お持ちしたJCBLのパンフが役立つと思います。クラスター爆弾の被害を受けている国が25ヶ国、被害者の数も地雷に比べれば少ないです。ランドマイン・モニターによると2008年には36.3%の人がクラスター爆弾以外の爆発物の被害に遭っています。対人地雷の被害者は25%。対車両地雷の被害者が12.6%、不明のものが11.4%、手作りの地雷による被害が10%となっています。クラスター爆弾による被害は5%です。ですから被害を受けている国も、人も少ないからクラスター爆弾について大騒ぎする必要は無いじゃないかという人もいます。ですが、私の考えは「火事はボヤのうちに消せ」です。今このまま放っておいたら被害を受ける国も人も将来増えるから、今のうちに禁止しようと思うのです。クラスター爆弾については被害が広がる前に条約が成立したのは良い事です。ボヤのうちに消し止めたのです。

(この後参加者全員から感想をお聞きして閉会となった)

(参考)
犠牲となった爆発の原因の分類(LM報告書2008年版、2009年版による)

原因          2007年の比率(%)      2008年の比率(%)
不発クラスター爆弾.............................5.4.......................................................... 4
上記以外の爆発性戦争残存物............36.3.......................................................40 
対人地雷 ..............................................24.9........................................................23
対車両地雷...........................................12.6.........................................................14
手作り地雷.............................................9.4............................................................3
不明.......................................................11.4.........................................................16
合計....................................................100.0........................................................100

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