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定期講演会記録39

 

第39 中部地雷問題支援ネットワーク講演会
コロンビアの地雷除去の現状と問題点

 
開催日時  平成30年10月28日(日) 午後2時00分~4時
 
 
開催場所  JICA中部 セミナールーム B1
 
 
講  師    白井敬二(中部地雷問題支援ネットワーク代表)
 
 
参加者    6名

 
 

 こんにちは。お忙しい中、第39回中部地雷問題支援
ネットワーク講演会においでいただき感謝いたします。
今回取り上げたコロンビアの地雷問題は日本ではあまり
知られていません。というか、コロンビア自体がほとん
どの日本人に馴染みがありません。何しろ外務省の資料
によれば2017年のコロンビアへ日本人旅行客は年間
7,500人です。なお、日本からはロサンゼルスで乗り換
え、約20時間のフライトが最短です。
 
 
  さて、今回の講演会の内容を目次で見ておきます。

1)コロンビアの基礎知識あれこれ
2)コロンビアの対人地雷除去の現状
3)各国からの対人地雷問題への支援の状況
4)対人地雷除去を拒むもの
5)日本の支援は?
6)まとめ  
 
 
 
(1)コロンビアの基礎知識あれこれ



1)コロンビアの基礎知識  

 コロンビアのことを調べてみると、本当に複雑な歴史があり、何時間も語れる内容なのですが、今回はごく簡単に触れるだけにしておきます。



 まずはコロンビアの国旗ですが、この国の歴史を物語っています。上部半分の黄色は、昔からコロンビアを代表する鉱物資源の金を表します。深いブルーは太平洋とカリブ海を表し、一番下の赤はスペインからの独立(1810年)の時に流した血(10年以上の戦いで10万人以上死亡:当時の成人男子の半分が死亡した)の色を表しています。  

 なお、コロンビアという名称は、クリストファー・コロンブス(スペイン語読みで、クリストバル・コロン)から来ています。「コロンの土地」という意味です。

 外務省のHPから読み取れるコロンビアの主な情報はこんなところです。

•面積 1,139,000平方キロメートル

•人口 4,865万人

•首都 ボゴタ •コロンビア共和国成立(1886年)

•日本コロンビア修好通商航海条約 (1908年)

•日系人(約2,000人)

•主要産業(農業 - 珈琲、バナナ、鉱業 - 石油、石炭、金、エメラルド)  


 日本の約3倍の面積の国土に、日本の半分弱の人口です。でも、人口は南米では、ブラジル、メキシコに次いで第3位です。なお、経済は、ブラジル、メキシコ、アルゼンチンに次いで第4位です。

 さて、コロンビアにも日系人がいますが、極めて少数で2,000人ほどです。資料によっては4,000人とするものもあります。彼らの大半は農業のほか、医師、弁護士、企業家などで、コロンビアのアッパークラスに属します。それゆえ、南米で最も成功した日系人と言われるわけです。コロンビアの基礎データをもう少し見ておきます。

•民族別: 白人・先住民混血(メスチソ)58.0%、白人20.0%、黒人・先住民混血(ムラート)14.0%、黒人4.0%など

•16世紀にスペイン人によるインディオの大量虐殺(後に労働力不足を補うために黒人の輸入)

•コーヒー栽培は19世紀中頃から

•コカイン製造のためのコカ栽培開始は1960年代であり、その前はマリファナ栽培

•治安悪化は1960年代(それ以前は安全な国)  

 コロンビアの人口比が侵略の歴史を物語ります。スペイン人は先住民のインディオに対し、凄まじい殺戮、虐待、暴行、陵辱を尽くしました。その結果、男性人口は激減し、後に労働力を補うためにアフリカから黒人を輸入します。女性を陵辱し、次々と子を産ませ、現在の混血率70%の国を築きました。純粋な白人の20%は後にヨーロッパ各国から移住してきたものです。

 コーヒー栽培の歴史は割と新しく、19世紀中頃です。コカの栽培はスペインによる征服前からありました。農民が高地での厳しい作業の苦痛を和らげるのに使ったとされています。今でも個人的に栽培している人は多いと言います。コロンビアでは少量の栽培は合法なのです。コカインの製造のための大々的な栽培は1960年代からです。同じ頃からゲリラやギャングが発生し、治安が急速に悪化しました。それ以前は、コロンビアは世界的にも治安の良い国として知られていたのです。


 
 
 この地図から、コロンビアには北西部に高い山脈があることがわかります。アンデス山脈の一部なのですが、コロンビア国内の名前は別にあります。高い山は5,000メートル級です。平野も多いのですが、主要な都市は大抵1000メートル以上の高地にあります。熱帯の暑さを避けて、過ごしやすい高地に人々が集まったからでしょう。


 コロンビアとアメリカは両国がスペインと対立していた1800年代から親密な関係にあり、それが今日まで続いています。南米で唯一の親米国がコロンビアなのです。輸出入の相手国は共にアメリカがトップです。そして、普通なら関係の深いはずの旧宗主国スペインとの輸出入額が少ないのです。スペインの征服政策の過酷さ、独立戦争における遺恨を表しています。


 コロンビアといえば、国内避難民が世界で最も多い国(740万人以上)として知られていますが、その理由は内戦時のゲリラと国家治安部隊の戦闘、武装組織・麻薬組織による22万人以上の虐殺などが挙げられています。いずれにせよ、日常的に常に身の危険を感じ、故郷を捨てざるを得ないほどの脅威が農村部を中心に溢れているということです。そして、その脅威の一つが対人地雷や簡易(即席)爆弾です。

 シリアほどではありませんが、コロンビアの難民の一部は隣国に避難しています。その数はエクアドルに23万人、ベネズエラに17万人と推定されています。


 ここでコロンビアの国内難民の発生原因をまとめておきます。  

 1985年以降に、政府、左翼ゲリラ、右翼民兵組織が三つ巴の抗争を展開したため、戦場となった地域の農民たちが身の危険を感じ、生まれ故郷を捨てて都市部に逃げ込みます。

 1990年代初頭にはメデジンカルテル、カリカルテルという2大麻薬組織が政府の掃討作戦で壊滅状態になります。それを受けて、左翼ゲリラと右翼民兵組織が麻薬(コカイン)の利権を手に入れ、豊富な資金源として勢力を拡大したため、強硬な政府が大攻勢に出て紛争が一層悪化し、国内難民が増加しました。この状態は2000年代初頭まで続きます。  

 武装組織は、農村部で徴兵をし、女性に性的虐待を働き、対人地雷を埋設し、金品を強奪し、地域の人権活動家も惨殺しました。農民たちにとって、安心して生活できる場所はなくなり、強制的に国内難民になるしか生きる道がありませんでした。  

 さて、2016年にFARCとの和平が成立して国内難民が帰郷できるようになったかというと、それはありません。FARCが武装解除したことで、その地域に「力の空白」が生まれ、他の左翼ゲリラや右派民兵組織、麻薬密売組織が勢力を伸ばし、危険度が高まっています。特に、コロンビア北部や南部では組織同士の抗争も激しく、住民は暴力から逃れるため、家や土地を捨て、新たな国内難民になっています。こうして新たに生まれた国内難民は2017年だけで14万人に達し、今後も増えそうだと言います。

 「法の支配」はまだコロンビア全体に行き渡っていません。国内難民の問題は簡単に解消することはありません。 コロンビアゲリラといえば、FARC(コロンビア革命軍)が有名です。サントス大統領が和平を結んだのもFARCでした。しかし、コロンビアには他にもゲリラ組織はいくつもあります。例えばELN(民族解放戦線)はFARCに次いで大きなゲリラ組織で、今も政府と和平交渉を続けています。しかし、最も一般市民を殺傷したことで有名なのはAUC(コロンビア自警軍連合)です。FARCやELNなどに参加するという理由で、多くの農民を殺傷しました。740万人と言われる国内避難民の理由は彼らが作ったとも言われます。

 ここで、「コロンビア内戦」と呼ばれている紛争について見ておきます。政府とFARCの戦いです。1964年はFARC成立の年です。死亡者22万人といえば、コロンビアの国民の5%です。740万人(多くは農民)が強制的に生まれ育った地を終われたのも無理はありません。紆余曲折があったのですが、2016年8月24日に政府と最大のゲリラ組織(FARC)との間に和平が成立したのですが、2018年の大統領選挙でサントス大統領が破れ、対ゲリラ強硬派のドゥケ大統領が就任しました。彼は「本当の社会正義が実現される国」を目指すとして、誘拐や殺人などに関与したFARC幹部の収監、参政権の停止などを実行すると約束しています。今後FARCと結んだ和平が白紙に戻る可能性まで出て来ました。危うい状況です。
今まで見て来たコロンビアの状況を相関図にしてみたのが以下の図です。




 政府、ゲリラ組織、麻薬組織、一般市民が複雑に絡み合っているのがお分かりになるでしょう。麻薬組織については後ほど詳しくお話します。基本的に、この構図は現在のコロンビアにもあると考えられます。

 さて、ここからコロンビアの2大カルテル(メデジン、カリ)について、見ておきます。これらは1980年代後半には当局の厳しい取り締まり(麻薬戦争)により壊滅状態になり、組織としての活動をほぼ停止しました。しかし、その後にはカルテリストと呼ばれる多数のコカイン売買の小型組織が活動を続けています。その結果、コカ栽培面積、コカイン製造量とも増加しています。




 これはかなり古い、2008年頃のコロンビア国内のコカ栽培地図です。国境地域や高地でコカ栽培が多いことがわかります。政府の取り締まりを受けにくく、コカの葉の供給を受けやすく、コカインの移動・販売が容易な場所は限られますので、今も同じような場所にコカ畑が存在していると思われます。

 サントス大統領が2012年からFARCと和平交渉を始め、それまでの除草剤の空中散布を中止したことで急速にコカ栽培面積が増大しました。なお、飛行機による除草剤散布には、通常の作物も枯れてしまうことや人体にも有害であることなどが人権団体等から指摘されていたところでした。最新のニュースでは2017年にはコカ畑の面積が21万ヘクタールまで拡大したと米当局から報告されています。



 
 この地図はコカインの流れを示しています。世界最大のコカイン製造国コロンビアのコカインは、今も米国本土やヨーロッパ・ロシアに向けて出荷されています。マーケティングの世界に「需要があれば供給が生じる」という言葉がありますが、まさにコカインについてもそのまま当てはまります。


 
2)コロンビアの対人地雷除去の現状  

 ここからコロンビアの対人地雷除去の現状を見ていきますが、合わせて被害者の状況も明らかにします。この国では50年以上にわたる内戦が今も続き、正確な地雷原さえ特定されていません。それでも、ICBLの発行するランドマインモニター2017には、地雷原はコロンビア政府の推定で46㎢と記載されています。

 一方で、国土の半分近くが何らかの形で対人地雷の影響を受けているというメディアの文書も複数あります。例えば、イギリス政府の観光安全情報には「コロンビアの地方では何の警告表示もない地雷原が存在するので、地方を訪ねる場合や主要道路以外を利用する場合には十分注意すること」と警告しています。

  

 
 この地図はICBLのホームページから引用しました。1990年から2008年の間に対人地雷等の被害の発生した場所を示しています。国境近くと山間部に被害の多いことがわかります。コロンビアでは、1990年から2016年までに11,615人の対人地雷被害者(死亡も含む)が発生しています。




 これはコロンビアで見つかった対人地雷です。FARCの工場で作られた地雷かもしれません。




これはディマイナー(地雷除去専門家)を主人公にした短い映像です。トムソン・ロイター財団が2016年7月に製作したものです。 彼女ノラルバは二人の子を抱える26歳の未亡人です。 英語の翻訳(意訳)は以下の通りです。  


 私が7〜8歳頃にFARCの兵士がそこら中にいたことを覚えています。彼らは、午後6時以降はそこ(地雷原)に行かないようにと注意していました。でも私たちは他の子に負けずと午後に出歩き、犬といっしょに遊んでいました。それでFARCの兵士たちは、もし私たちがそこ(地雷原)へ行くなら実際に足をなくす危険があると忠告していました。

 私が13歳のときに、FARCが新兵になるように誘ってきました。祖母は隣の家の人からその話を聞き、すぐに私を連れて家を離れました。神のご加護により、家族が素早く行動し、私を父と姉妹たちが住むカルタヘナ市に送り出しました。

 彼女ノラルバはヘイロー・トラストの地雷原除去の仕事で働くようになって、生まれ故郷に戻ってきました。

 私たちは地雷除去の仕方と危険な目に遭わないで土地を安全にするやり方を教えられました。もし、自分は怖くないと強がりを言う人がいたら、本当は怖がっているのです。それでは細心の注意を払って働いていないことになります。

 ところで、私の子どもたちはまだとても幼く、6歳と4歳です。二人には常々こう言い聞かせています。「可愛い子どもたち、でも毎日は一緒にいてあげられないの。ヘイロー・トラストで働いていて、地雷を見つけ、除去しているから」。

 子どもたちが「ママ、それってすごく危ない仕事じゃないの」と聞くので、私は「少しね。でも、地雷除去のこと全てについてとても詳しい教育と訓練を受けているから、何も危険なことは起こらないわ」と答えています。そうすると息子が「わかったよ、ママ。大好きだよ。うまく地雷をとってたくさんの土地を安全にしてね。本当に大好きだよ」て、言ってくれます。

 内戦では本当にたくさんの罪もない人たちが死にました。でも、たいていの人たちは基本的に内戦について詳しいことは何も知らないのです。はっきりわかっていることは内戦のためにずっと私たちが苦しんできたということだけです。コロンビアで戦争がいったい何年続いているのか、誰が関わっているかなど私たちは何も知らないのです。でも、確かにわかっていることは、私たちの家族と地域の仲間たちに恐ろしいことが起ったということです。

 政府とゲリラの双方が取引し、サインし、「停戦協定は成立した」と宣言したことでコロンビアの停戦が成立し、戦争が終わり、誰にも平和が訪れたことを私は嬉しく思っています。

 現在の課題は停戦を継続させることです。そして合意した内容を実施し、ゲリラが所有する武器を提出させ、彼らが再び社会に戻るまで、すべての合意内容を完全に実施させることです。その作業はすでに始まっています。

 私や同僚が爆発物を発見したと報告することで誰かの危険を防いでいること。罪もない人々が本来受けるべきではない苦しみを受けないようにしていること。そうすることでコロンビアの平和のために役立っていることを私は誇りに思っています。


 さて、案内でなぜ女性のディマイナーが多いか、という質問を出しておきましたが、それに対する答えです。コロンビアで2018年9月21に発表された国税調査によれば住民の51.4%が女性、48.6%が男性です。大した差ではないと感じるかもしれませんが、実際には、女性100人に対して男性が95人、または男性100人に対して女性106人ということです。  

 それに加えて内戦で22万人が死亡し、4万5千人が行方不明になっていますが、それによって生まれた母子世帯があり、収入を得るために女性が先ほどのノラルバのようにディマイナーになるケースがままあります。

 さらに、FARC等のゲリラ組織に加わったことのある女性は武器を扱うことに慣れているため、ディマイナーとして訓練され、採用されている場合もあります。

 最後に、地雷除去という作業は長時間高度な集中力を要求されますが、女性の方が忍耐強く、丁寧に仕事ができるという傾向があることは世界中で認められていることです。



 この映像は毎日新聞が2018年2月26日に公開したものです。コロンビアの緊張が続いている現況(街中でも爆破テロを警戒)と、軍による軍人の被害者支援がかなり丁寧に行われていること、対人地雷除去に対する取り組みがどのように行われているかがわかります。ディマイナー教育で罠線を使った簡易地雷が多いため、除去作業の最初に罠線の確認をさせていることが印象的です。また、地雷犬を使うのも金属探知機に反応しにくい簡易地雷が一つの理由です。


なぜ地雷犬が多用されるのか 

 コロンビアで地雷犬が多用される理由は先ほど説明しました。簡易地雷が多く、金属探知機が作用しにくいため、火薬の匂いで発見できる地雷犬が多く使われています。また、山岳地帯など足場の悪い場所での除去作業では、地雷犬の方が効率よく発見できます。なお、体重が軽いので地雷が爆発しないと言う人がいますが、2〜3キロの加圧で爆発する対人地雷もありますので、それは間違いです。実際、資料5のように地雷犬が対人地雷の被害を受けることもあります。地雷犬も命がけなのです。


 簡易(即席、手製)地雷はプラスチックやダラスのビンを使うことが多く、金属は信管(fuse)とリード線くらいです。コロンビアでどれくらいの数の簡易地雷が使われているか、なぜ使われているか、という正確なデータはありませんが、相当数使われていることは間違いありません。多くの被害者いるからです。そういう面からも2021年までに完全に地雷除去作業を完成させるというコロンビア政府の目標達成はかなり難しいもののように見えます。

 コロンビアでは対人地雷被害者が、2000年以降急激に増加しました。前半でお話しした、麻薬カルテルとの戦争が終わってからのことです。対人地雷被害が増えた理由は、政府と反政府ゲリラの戦闘が激化したからです。しかし、2006年を境に被害者数が減少しました。第2期ウリベ政権が2004年からゲリラ組織に対して軍事行動を強化し、封じ込めに成功したことが理由です。2005年からAUCなどの右翼武装勢力の武装解除が決定した影響で、戦闘が少なくなったことも被害者減少の原因の一つです。ウリベ大統領が2004年にかかげた目標は以下の9項目でした。

1. 徐々に、すべての自治体で警察の存在を回復する

2. 社会的に衝撃の大きい犯罪に対して訴訟を増加させる

3. 公共機関の強化

4. 人権侵害を抑える

5. テロ組織の解体

6. 誘拐と強要を抑える

7. 殺人件数を低減させる

8. 強制移住を中止し、被強制移住者の帰還を支援する

9. 不法な麻薬取引の禁止、根絶、および訴訟などにより戦い続ける


 2004年8月からの公式の政府統計情報によると、その後2年間で、コロンビアでの殺人、誘拐、およびテロ攻撃は(事実とすればおよそ20年で最も低いレベル)最大50%減少したと報告されました。



 このグラフと先ほどの説明を突き合わせてみると、戦闘行為の減少が対人地雷被害者の数も減らすことがよくわかります。対人地雷除去のペースは遅々として進んでいませんが、戦闘地域でありまた濃厚な地雷原のある地域から強制的に立ち退きを要求された農民たちが都市部に移動し、国内難民化したため、対人地雷による被害者数は順調に減少を続けています。  

 しかし、2018年8月に就任したドゥケ大統領が、FARCとの和平項目を見直す姿勢を見せていることから、和平の継続が維持できるか疑問視されています。また、先ほどお話したように、南部や北部でFARC以外のゲリラ組織や麻薬組織の勢力が強くなっています。再び戦闘行為が活発になり対人地雷被害者が増えることも十分あり得ます。  

 もし逆に和平が続く場合には、都市部に一時避難している農民たちに帰郷を促す政策がとられるかもしれません。まだ対人地雷が多数残っている農村部に人々が帰郷すれば、再び対人地雷の被害者が急激に増加する可能性が高いでしょう。いずれにしても、前途は多難と予想されます。  

 さらに、先ほど紹介したコカ栽培面積の急激な拡大は、その周りに埋設する対人地雷や簡易地雷を増加させます。その点からも、今後の地雷被害増大が心配されます。  

 さて、私が気になるのは、コロンビアの対人地雷除去面積の少なさです。平方メートル表示では大きく見えますが、平方キロメートル表示では、0.26平方キロメートルです。ちなみにアフガニスタンの2016年の除去面積は49.25平方キロメートル、カンボジアでは25.33平方キロメートルの除去を終えています。  

 一方で、コロンビアは対人地雷除去のための国際支援をかなり受けています。26.2百万ドル(アフガニスタン57.3百万ドル、コロンビア35.9百万ドル)です。もちろん、2016年前半はまだ和平が成立していませんでしたから、対人地雷除去作業もままならなかったでしょうが、700万人を超える国内避難民を抱える国としては、早期に避難民をかつての生活圏に返す義務がありますから、ゲリラ対策、麻薬組織対策とともに今後の本格的な地雷除去作業が進められるべきです。


 ここで、コロンビアの対人地雷問題について分かっていることをまとめてみます。コロンビアでは世界の平均に比べて、対人地雷被害者の市民の割合が4割と低いのです(世界の平均は8割)。この理由は、繰り返しになりますが、対人地雷の埋められている地域に市民がいない(国内難民として都市部に移動させられて)からにすぎません。  

 地雷原の多くがゲリラの拠点がある山間部にあるのは当然です。そこで戦闘が行われるからです。  

 サントス大統領はNGOの地雷除去に加えて、軍の力で地雷除去を強力に推進する方針をとりましたが、実効はまだ高まっていないように見えます。  

 国の方針では対人地雷全面禁止条約の定める地雷除去期限(10年以内)である2021年を目標に地雷除去作業の終了を目指しているわけですが、まだゲリラ組織の一部が政府側と戦闘行為を継続していることもあり、新たな対人地雷が埋められているはずです。期限通りに作業が終了することは難しいでしょう。  

 繰り返しになりますが、コカの栽培面積の増加は地雷原の拡大も意味すると考えられます。この点でも、地雷除去の終了は容易ではありません。


3)各国からの対人地雷問題への支援の状況  

 一貫して多大な支援を送り続けているのがアメリカです。ノルウェー、EU、カナダと続きます。日本は歴史的にコロンビアへの支援はそう多くありません


4)対人地雷除去を拒むもの  

 先ほども相関図で示しましたが、複雑に絡み合ったコロンビアの負の連鎖はそう簡単にはほぐれないと思われます。しかし、前向きな姿勢があるのがこの国の強みです。正義を追求するドゥケ大統領が選ばれた今、行く末は見えています。FARCメンバーへの責任追求を強化すれば、反発から和平が廃棄されて再び戦闘状態になるかもしれません。

 ですが、ドゥケ大統領は断固として選挙公約(FARCメンバーへの安易な恩赦は認めない)を守るでしょう。それが多くの国民の期待するところだからです。平和なコロンビア、対人地雷被害者のいないコロンビアはしばらくお預けと思われます。

 ここで現在のコロンビアの問題点を再度整理しておきます。

1、強硬派のドゥケ大統領就任(2018.8.15)によって不透明な和平の先行き

2、コカの畑は最大化を続けている

3、絶え間なくテロ、殺人、誘拐事件が起こっている

4、国内難民は今も増え続けている(農村部から都市部へ)  


 これらはいずれも明白な事実です。こういう背景があることから、コロンビアの対人地雷の問題が解決に向かうと楽観的には考えられません。


5)日本の支援は

 日本の支援を考えるときに大切なのは、お金ではない支援の方法です。 日本政府はいかにも全ての面に渡ってコロンビアに支援をしてきているようですが、すべての支援は期限を切った単発事業であり、対症療法です。日本からの資金援助がなくなれば、全てがゼロに戻ってしまう援助が大半です。コロンビアの人々が自力で引き継いでいける形の支援が必要です。

 繰り返しますが、日本の支援は基本的に単年度主義です。コロンビアだけでなく、どこの国への支援でも10年、20年といった長いスパンのものはありません。コロンビアのように、歴史的な経緯から貧富の差が非常に大きくその不満が鬱積している国の場合、貧困層の恨み辛みは実質的な所得水準の安定的上昇がなければ決して解消しません。こうした社会的分断の問題を放置したまま、金銭的支援を散発的にしても根本的な解決にはなりません。ソフト面での支援が大切なのです。

 コロンビアの対人地雷被害者、そして一般市民の生活水準を引き上げる支援(教育、就労、生活など)に支援の重点を移すべきです。


6)まとめ  

 対人地雷の問題も含め、コロンビアの人々の意識や態度を変える支援が必要です。 PP47  あなたの支援は、まずコロンビアに関心を持つから始めるべきです。そして、貧困からの脱却、支配階級への不満・不信、安全確保への不安などを取り除くことがコロンビアの将来にとって必要なことを認識し、地雷犠牲者への直接支援と並行して、国の安定を支える支援が必要なことを納税者として日本政府に働きかけるべきです。
 
 

 
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