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定期講演会記録24

第24回 中部地雷問題支援ネットワーク講演会
無差別兵器の危険から市民を守りたい!

1)〜対人地雷全面禁止条約発効後10年の成果と課題〜
2)日本政府による地雷探知・除去技術の研究・開発計画(2002年~2007年)のその後

開催日時   平成22年5月30日(日) 午後2時00分~5時00分
開催場所   なごやボランティア・NPOセンター  集会室
講  師   白井 敬二(中部地雷問題支援ネットワーク代表)
参加者    21名

1)〜対人地雷全面禁止条約発効後10年の成果と課題〜

1.対人地雷とは?その特徴は?

  1)対人地雷の特殊性
    ・残存性、無差別生、残虐性
  2)様々な異名
    ・悪魔の兵器、貧者の兵器
    ・24時間眠らない兵士
    ・スローモーションの大量破壊兵器
  3)対人地雷問題の特徴ー4つのギャップ
    ・埋設と除去のスピード
    ・費用のギャップ
    ・技術の格差
    ・軍事的有効性と人道的被害の落差

2.対人地雷条約10年の歩み(ランドマイン・レポート2009から)

  ・対人地雷対策
  ・地雷除去活動
  ・地雷被害者
  ・地雷回避教育
  ・地雷禁止運動を支える

3.対人地雷禁止条約の成果

  ・この10年で世界に3/4の国が対人地雷全面禁止条約に参加した
  ・156ヶ国が対人地雷全面禁止条約を批准した
  ・2ヶ国が批准待ちである
  ・2007年以降条約

4.対人地雷禁止条約非参加国

  ・対人地雷全面禁止条約発効後10年経過した今日も、米中ソの超大国を含む39ヶ国は依然として条   約に参加する兆しは全くない。
  ・主要非参加国には当然ながら、対人地雷の大量保有国、生産国、使用国が含まれる。
   →ロシア、中国、アメリカ、インド、パキスタン、ミャンマーなど

5.対人地雷の使用

  ・ロシア、ミャンマー


6.数値から見えてくること

 *アンゴラの対人地雷汚染地域面積、対人地雷被害者数が異常に少ない
 *アンゴラではカンボジアに比較して対人地雷除去のコストが極めて高い
 *アンゴラ政府は対人地雷除去も含め、国民の福祉向上に熱心でない

7.支援を再考する

 アンゴラのような国の場合、各国政府やNGOが人、モノ、金(援助資金)をどれだけつぎ込んでも実際の対人地雷除去や人道支援に生かされていないと考えられる。こういう国には援助の仕方を考えなければならない。
 ひとつの基本的な解決策として「教育」がある。アンゴラにおける国内紛争は何が原因だったかと考えると、石油とダイヤモンドをバックにした富の独り占めを目指したところにある。富を持つ者が増々富を増大させようと躍起になるのは洋の東西を問わない。しかし、際限もない富の追求は大多数の国民を不幸に陥れ、常に不安定さを生む。むしろ富の分配こそが社会の豊かさと安定をもたらすことを学ぶべきである。実際アフリカのいくつかの国では国民全体を豊かにする政策がとられ、その成果が着々とあがっている国もある。そしてその基盤は「教育」である。
 貧しい者が裕福になるチャンスを得るために教育は大切である。富んだものが自分のみの幸せだけでなく。慈悲深く「全体の福祉向上」に目を開かせる教育も必要である。そして、こういう分野の援助の方がずっと援助の「花」が咲きやすいのだ。
 日本人はアフリカの国々で尊敬されているという。第二次世界大戦であれほど完膚なきまで壊滅状態になったにも関わらず、僅か50年くらいで、見事な復興を果たし、今や世界経済の中核にまでなっている。アフリカ諸国の人々にとってこれは奇跡であり、これを成し遂げた日本人は非常に好感と尊敬の念を持って迎えられているのだ。その日本人の有利さをもって基本的な教育分野でアンゴラ支援が出来ると思われる。

8.KOMATSUとTAKARA(民間企業の力)

 KOMATSUは言わずと知れた重機メーカーである。そのKOMTSUがアフガン、カンボジア、そしてアンゴラで対人地雷除去に取り組んでいる。当然ビジネスとしてやっているが、人道支援の美旗も掲げている。現地採用の職員にメンテから操縦まで全て教え込み、補修機材のサプライも面倒をみるという。長く続く事をいのりたい。TAKARAはKOMATSUと組んで、地雷除去機の模型を売り出している。継続的な支援目指しているという。一つのあり方だと思う。ただ、成果と今後の計画が分かりやすい形で公表されていないのは残念である。

9.終わりに

 今回は客観的なデータによってアンゴラとカンボジアの対人地雷問題復興の状況を説明した。しかし、実際現地で調査しなければ分からないことも多い。いずれは現地調査と支援に着手したいと考えている。


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2)日本政府による地雷探知・除去技術の研究・開発計画(2002年~2007年)のその後


                                      JCBL 北川 泰弘
1.
経緯
 2002年(平成14年)1月のアフガニスタン復興会議における小泉首相の発言を受けて、日本政府は日本が得意とするハイテクによる地雷探知・除去技術の研究・開発を通じて世界に貢献することとなった。 これまでの地雷探知の主流は金属探知機で、電気掃除機のような探知機で地表を丹念に探り、警報音が鳴ればその地点に標識を立て、交替した専門の要員が這いつくばってプロッター(刺し棒)という細い棒を地面に差し込み、警報のもとになった物体にそっと触れて、地雷か金属片かを見分ける。アフガニスタンのある地雷除去団体の報告では警報音が420回鳴って1回の割合で地雷が見つかるという。このように金属探知機で地雷を探知するのに多大な手数と時間がかかる。忍耐と労力を要し危険を伴う。それに代わる安全で効率的なハイテク技術を開発しようというものである。文部科学省は科学技術振興機構(JST)に、経済産業省は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に夫々委託して研究・開発を実施した。委託を受けたJST、NEDOは人道的な観点に立って地雷の探知・除去技術を研究・開発しようという大学・企業を募集、選定し、研究・開発費の50%までを支援する方式をとった(表1、表2)。また、開発された機器の現場テストは外務省のODAの資金で行われた(表3)。JSTの6ヶ年計画は33.3憶円を支出して平成19年度(2007年)に、NEDOの5ヶ年計画は7.7憶円を支出して平成18年度(2006年)にそれぞれ終了した。外務省は研究・開発への支援額として平成14~19年度に合計16.5憶円を支出した。この期間に日本政府が地雷探知・除去のハイテク技術の研究・開発の助成に支出した金額の総計は約58憶円であった。







2.
研究・開発の成果の評価
2.1 評価する人の立場により色々な評価があろう。JCBLは元朝日新聞社の編集委員で地雷問題に詳しい百瀬和元氏の所見を会報42号(2008年1月)で紹介した。百瀬氏によれば、除去機3機種が2007年秋からカンボジアで最終運用試験をしたあと、除去現場で利用される段取りとなった。だが探知機については、実用化のためにさらなる研究が必要である。「夢の探知機」としては、いま米国の開発した探知機(註:HASTAMIDS, Hand Held Standoff Mine Detection Systemのこと)(写真6)が脚光を浴びている。1996年から7300万ドル(約70億円)を投じた甲斐あって探知率97%だという。米軍での現場配備が始まり、カンボジア、アフガニスタン、タイで人道的な地雷除去活動にも使われた。2006年からヘーロー・トラスト(地雷除去専門の英国の民間団体)も試用を始めたとされると結んでいる。しかし、最近アフガニスタンでこの探知機で安全とされた土地で人身事故が起き、それ以来この探知機の発注が減り、従来型の金属探知機の発注量が増えているとの非公式情報がある。

2.2 日本政府が地雷問題を重く見てこれだけの大きなお金を支出し、多くの大学、企業が地雷の探知技術、除去技術の研究・開発に関心を持ち、真諮に取り組んだことは評価に値する。一方、地雷被害国に駐在して地雷対策の総合調整を行っていた国連の高官が「既に欧米の企業が研究・開発をやりつくしたこの分野に日本が今頃参入しても成果は期待できない」という意味の発言をしたと言われる。東北大学の佐藤源之教授によれば、日本政府の助成が終わった平成20年(2008年)以降、自己資金で実用機器の開発に向けて研究を続けている大学・企業はデュアル・センサー方式の地雷探知機、ALIS(写真1)に取り組んでいる東北大学のみである。

2.3 政府が助成金を出した期間が終わり、2年余を経た2010年5月現在の時点に立ってこの研究・開発計画の成果をどう評価すべきであろうか? 評価の一つの方法として、ジュネーブ人道的地雷除去国際センター(GICHD)が発行した「機械式地雷除去機カタログ2010年版」 、及び「地雷探知機、防護具カタログ2009年版」 の記事を見て考えてみる。このカタログは探知機・除去機の製造メーカーが提出する投稿を、編集・掲載したもので機器の性能、品質についてGICHDは責任を負わないとしている。しかし、自信のないメーカーは投稿しないだろうから、このカタログに掲載されるか否かが一応の評価基準になると考えられる。

2.4 GICHDのカタログに掲載された納品先の国名と納入台数
1)
川崎重工の対人地雷除去機Mine Bull(写真8)
1号機が2007年9月にアフガニスタンに搬入され、活動を始めた。
2)
川崎重工の車両型地雷等探知機Mine Dog(写真4)
GICHDの「地雷探知技術・人道的除去システム ガイドブック2006年版」 に掲載された。しかし、「地雷探知機、防護具カタログ2009年版」で姿を消した。
3)
コマツの対人地雷除去機 D85EX-15ブルトーザー型(写真11)
 1号機がアフガニスタンに、2号機、3号機がカンボジアに、4号機がアンゴラに納入された。納入された年は記載されていない。
4)
山梨日立建機のマルチ・ツール・システム地雷除去機 BM307 V33(写真9)
ロータリーカッター装着型:54台
   カンボジアに2000年に2台、2003年に8台、2005年に14台、
   アフガニスタンに2000年に1台、2003年に2台、2007年に2台
   ニカラガに2001年に3台
   ベトナムに2003年に20台
   アンゴラに2007年に2台
フレール・ハンマー装着型:3台
 アンゴラに2007年に2台(V33型)
アフガニスタンに2007年に1台(V35型)

5)
山梨日立建機のフレール/重フレール地雷除去機 BM307 FV30(写真11)
この除去機の研究・開発にはNEDOの助成金は受けていないが、間接的な支援を受けたと思われる。
ロータリカッター装着型:32台
カンボジアに2000年、2003年、2005年に計24台
アフガニスタンに2000年、2007年に計3台、
ニカラガに2001年に2台、
ベトナムに2003年に1台、
アンゴラに2007年に2台
フレール・ハンマー装着型:3台
   アンゴラに2007年に2台
   アフガニスタンに2007年に1台

6)
東北大のALIS (Advance Landmine Imaging System)(金属探知機と地中浸透レーダーのデュアル(マルチ)・センサー方式)(写真1)
 「地雷探知機・防護具カタログ2009年版」によると、ALIS-PGが2台、ALIS-VNAが3台製造された。ALIS-PGの2台はクロアチアの地雷原で6ヶ月間の試用に供された。2010年3月にALIS-PGの2台がカンボジアで試用された。

3.
研究・開発の果実と、助成に要した資金
3.1 NEDOの助成金総額7.7憶円に対し、山梨日立建機の地雷除去機V33が5ヶ国に計57台、FM30が5が国に35台、総計92台が納入されたと記載されているのが傑出している。川崎重工の車載型地雷探知機は2006年版に掲載されたのに2009年版では何故か姿を消した、川崎重工、コマツの除去機の成果は今後の情報待ちである。少なくとも、山梨日立建機の除去機は活躍中と思われるので助成の成果はあったと見ることが出来る。

地雷探知機の分野ではJSTの助成金総額33.3億円に対し、東北大学が平成20年度(2008年)以降自己資金でALISの研究・開発を続けているのを除いて、それ以外の研究・開発は打ち切られたと想像される。東北大学は自己資金でALISの研究・開発を続けているが、現地で試用に供されたのは2台のみであり実用機の開発までの道は遠い。NEDOの7.7憶円、JSTの33.3憶円の他に外務省が現地テストのために16億円を支出した。合わせて政府の助成金総額は58億円であった。費用対効果の見地では果実が小さかったかに見えるが、山梨日立建機の健闘と、東北大学が金属探知機に代わるALISの研究・開発を継続している点は評価するに値する。

3.2 GICHDの「地雷探知技術・人道的除去システム ガイドブック2006年版」は、これまでの研究・開発は技術の開発に重点が置かれ、現地における使用環境の複雑さを軽視していたと反省している。
更に同ガイドブックは、米国のシンクタンク、ランド社が2003年に発表した報告書で米連邦政府に対して、マルチ・センサー方式(ALISの方式)の試用機の開発に7年の歳月と6000万ドル(60億円)を、実用機の開発に更に1億3500万ドル(135億円)が必要と報告したと述べている。東北大学は政府の助成金が受けられなくなって以来試作機の現地試用テストを自己資金で行っているが、実用化に必要な膨大な資金を大学に負わせるのは無理である。実用化に必要な資金をどうやって調達するかの問題が残る。

4.
デュアル(マルチ)・センサー型地雷探知機 について
金属探知機に地中浸透レーダーを併用する探知機をデュアル(マルチ)・センサー型地雷探知機と言い「夢の探知機」と言われている。金属探知機で金属を検知した後、ブロッダーを地面に差し込んで地中を探る代わりに、レーダーでその形状を見て地雷か金属片かを判別する。GICHDはこれまで地雷探知に多く使われている金属探知機に代わる探知機の主流はデュアル・センサー型地雷探知機であると見ている。「地雷探知機・防護具カタログ2009年版」に掲載されたマルチ・センサー型は、東北大のALIS(写真1)、ロシアのMirador(写真5)、米国のL3-Cy Terra AN/PSS-14 (HSTAMIDS、Handheld Standoff Mine Detection System)(写真6)、ドイツ、英国のVallon VMR-2(Mine Hound)(写真7)の4機種である。
地雷の有無を判別するのに、前二者は音と画像を用い、後の二者は音のみを用いる。ALIS以外は軍の研究・開発であるので技術の詳細は明らかでない。東北大のALIS、ドイツ、英国のMine Houndは試用品が作られテスト中の段階である。ロシアのMiradorも同じ段階と推定される。米国のHSTAMIDSのみが実用化され、大量生産されて軍に配備された。しかし、アフガニスタンでHSTAMIDSにより地雷なしと判定された土地で地雷による人身事故が起き、それ以来デュアル・センサーでない従来型の金属探知機の注文が増えたとの非公式情報がある。探知率97%でも、残りの3%で事故が起きるのである。
 東北大は第3期ALISプロジェクトとして、2010年3月10日から31日、カンボジア地雷対策センター(CMAC)の協力を得て、コンポントム州ストゥン郡プラレイ村で、2台の試用機、ALIS PG-1、PG-2の現場試験を行った。 その結果、PG-1は358回反応した中で、地雷を地雷として7回、金属片を金属片として223回正しく判定した(探知率64%)。残念ながら、金属片を地雷と判定したものが128回あった(35%)。地雷を金属片と判定した回数はゼロであった。PG-2は391回反応して正しいと判定し探知率が69%、間違って金属片を地雷と判定した回数が30%であった。PG-1、PG-2とも地雷を見逃さなかったこと、金属探知機ならば警報音があって地雷か金属片かをプロッダーを用いて判別する作業が約400回を要するはずが約120回で済んだことは一応評価されるが、もう少しの精度の向上が望まれる。HASTAMIDSの探知率97%を超える精度の探知機を日本のハイテク技術で実用化出来なければ意味がないことを銘記すべきである。

5.
ハイテク機器導入の成果(カンボジアの例)
 カンボジアは地雷/不発弾(以下、地雷と略記する)による汚染が甚だしく、多くの地雷犠牲者を出している。そのため、世界の地雷除去団体がカンボジアの支援に乗り出し、地雷の除去を効率的に安全に行うハイテク機器が集中した。例えば、山梨日立建機の除去機が38台、コマツの除去機が2台入っている。加えて、1991年の和平合意以降、1997年に小さな紛争があったほかは政治が安定し平和が保たれて、地雷/不発弾による汚染地域、犠牲者支援、除去の実績に関する情報が組織的に集められ、報告書が完備している。カンボジアを例にとって地雷/不発弾の除去の進行状況、毎年の死傷者数の減少を見てみよう(表5) 。
地雷による汚染地域で除去が求められている土地の推定面積は2009年8月現在で649平方㌔、2008年に除去した面積は63.26平方㌔。その他に地雷による汚染地域に指定されたが、再調査の結果地雷の危険なしと判定され、地雷危険地域の指定から除外された面積(エリア・リダクション)が482.16平方㌔であった。
オタワ条約による地雷の除去期限は2010年1月1日であった。毎年の除去面積は二桁なので完全除去まであと10年かかる。しかし、エリア・リダクションの面積が三桁であることを考慮すると、2010年1月には間に合わなかったがカンボジア全土から地雷の脅威が無くなる日は近いと思われる。但し、カンボジア政府は2009年11月の締約国会議に除去期限の延長要請を提出し、10年の延長が認められ修正除去期限は2020年1月1日となっている。
カンボジアにおける2008年の地雷による死傷者数は269人(2007年は352人)、地雷で傷ついた生存者数は43,926人であった。1999年までの毎年の死傷者数が1000人を超えていたことを考えると、この10年間で地雷/不発弾による死傷者数が四分の一に減少したということは除去に対するハイテクの適用の成果ということが出来る。しかし、年間に100人を超える死傷者を出す国は、アフガニスタン、コロンビア、イラクを除いてカンボジアだけである。さらなる地雷/不発弾除去の努力が望まれる。                                                   以上


















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