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定期講演会記録10

10回 中部地雷問題支援ネットワーク講演会

 約束された脅威 -ビルマの地雷問題を考える

開催日時  平成15年4月20日(土) 午後2時~4時30分開催

場 所   瑞穂生涯学習センター 視聴覚室


講 師   加藤 美千代     


参加者   13名

 中部地雷問題支援ネットワーク主催の第10回定期学習会を開催いたしました。今回はJCBL(日本地雷廃絶キャンペーン)会員の加藤美千代さんをお招きして、2003年4月20日に開催しました。加藤さんはイギリス留学終了後、2001年から2002年の2年間にタイに本拠にビルマの対人地雷事情調査、提言活動、地雷犠牲者支援、地雷被害回避教育等において広範かつ中身の濃い仕事をされ、国際的にも高い評価を受けている方です。大変貴重なお話を伺えた今回の学習会は参加者13名とややこぢんまりとした会でしたが、その分質疑も参加者それぞれの理解に応じて自由に活発に行われ、大変有意義だったと思います。以下は講演の記録です。

 はじめに加藤さんの発案で参加者の自己紹介で、名前と参加の動機・目的をめいめいに語ってもらいました。
自己紹介の中から、北川泰弘JCBL会長の発言を紹介します。

 

 地雷廃絶キャンペーン(JCBL)の北川です。東京から来ました。名古屋との関連は1953年から1955年に御園座近くの電話局に勤めていました。その10年くらい後にも名古屋に来ました。地雷との関係は1995年ごろからカンボジアで地雷で足を失った人たちに日本から義足を送ろうとしたのですが、人によって寸法が違うため現地で作ろうと若い義肢装具士達を現地に送り込んだのがきっかけです。加藤さんとの関係ですが、ここに写真があります。加藤さんの隣に写っているのがヨシュア・モーゼと言いまして、まるで旧約聖書に出てきそうな名前ですが(加藤さんの割り込み発言「彼は仏教徒です。」)彼はずっとバンコクでノン・バイオレンス・インターナショナルの平和を唱えている平和主義者です。彼も地雷廃絶運動にも関わって来たのですが、彼から「ビルマの地雷の調査をしたいが誰かいないか。」とかねがね言われていたのです。たまたま3年前にジュネーブで加藤さんにばったり出会いました。「何をやっているか。」と尋ねたところ、「ビルマ語を勉強している。」との事だったので、「じゃあモーゼのところで手伝わないか。」と言ったところ、加藤さんは本当に乗り気になりまして2年間モーゼのところで、バンコクを根城にしてビルマの地雷問題の調査をしました。また、地雷廃絶キャンペーンのビルマの地雷事情を世界に発表するレポートなのですが、これも加藤さんが書きました。偶然の出会いでしたが、良い出会いだったと思っています。今日、発表の機会があると言うことで参加させていただきました。

以降に加藤さんの講演記録を続けます。

 

 もう少しだけ自己紹介を付け加えますと、先ほど北川さんの言っていましたように、タイのノンバイオレンス・インターナショナルというNGOで2年間ビルマの地雷の調査に関わりました。地雷の調査と言いますと皆さんから地雷探知機を持ってやるのですかと聞かれるのですが、そうではありません。例えばビルマに地雷の被害者がどれくらいいるかとか、どんな種類の地雷を作っていて、どういう方法で使っているかを調べて地雷モニター報告書というレポートに書いて、各国の政府とかビルマの中にいるNGOとか国際赤十字同盟の人とか日本政府などにビルマは地雷をこのように使っていますので、ビルマの政府が地雷を使うのを止めるよう言って下さいと訴えるような仕事をしてきました。調査提言活動の他にも、犠牲者支援活動に関わってきました。ビルマとタイの国境に、ソンクラブリという小さな町があるのですが、そこに地雷被害者の方たちがたくさん住んでいました。ビルマの国内では今も紛争が起こっているのです。それで逃げてくる人がたくさんいます。その中で難民キャンプに入れる人たちはとても幸運な人たちです。難民キャンプに入れさえすれば国際NGOから義足の支援を受けられたり、生活の支援を受けられたりします。難民キャンプにいる人たちの数が3万人から4万人位です。名古屋ドームの収容人員くらいの人々が難民キャンプに住んでいるという事になります。その他にもタイに逃げてきたのだけれど難民キャンプに入れて貰えなかった人たちがいます。その人達は「移民」と呼ばれています。タイの政府は難民の数を増やしたくないので彼らを難民として認めないのです。それで、彼らはタイ国内に不法に滞在せざるを得なくなるのです。そういう人たちがタイに大体10万人くらい居ると言われています。私がソンクラブリで会った人たちも不法滞在の移民でした。移民に対する援助はなかなか届かないのです。その人たちの立場が違法だから日本政府からお金を出すことは出来ないということで援助の空白になっています。私たちは移民のグループに義足の支援をする事もやっていました。ビルマの国内で言いますと、ビルマの政府は少し前までは自分の国には地雷が無いと言い張っていましたので地雷の問題を持ち出すことはタブーなのです。私たちも地雷の事を口に出すと、ビルマ国内から追放されたりビルマ人の関係者に迷惑がかかるので地雷問題に直接は触れられませんでしたが、私のいたNGOでは何とかビルマの政府と対話を増やしたいという事で、ビルマ保健省に被害者の支援の一環としてデータの収集から始めて行きませんかとプロジェクトを持ちかけたりしていました。それが私が最初にタイに行って始めたプロジェクトですが、一年目の始めに話を持ちかけたところ「返事を待ってくれ。」と言われて二年目になっても何も返事を貰えませんでした。ストップがかかってしまったわけです。タイではこういったプロジェクトに関わってきたのですが、今は東京に住んでいてJCBL(地雷廃絶日本キャンペーン)の活動のお手伝いをしています。
 

 

 そこで、ビルマの位置なのですが、地図を書いてみますとごらんの様にインド、タイ、バングラディッシュ、ラオス、中国と国境を接しています。ビルマは軍事政権で一党政党です。ビルマにはビルマ族の他に大変多くの少数民族が住んでいます。特に国境のあたりに多くの少数民族がいます。それらの民族と政府の間に内戦が30年も40年も続いています。その結果タイやバングラディッシュにビルマの国民が逃げ出すわけです。
地雷があるのは、タイとの国境付近です。インドとの国境、バングラディッシュとの国境にも少しあります。ビルマ族の住んでいる所には地雷はほとんどありません。中国との国境には今は地雷はありません。ほとんどの地雷がタイとビルマの国境にあります。地図がありますのでご覧下さい。色のついている所が地雷の影響を受けている州です。そしてこの赤い所が実際に地雷を踏んだ人がいる箇所です。この調査は私が働いていたNGOでやったものですが、200人くらいの被害者の人達に「どこで地雷を踏みましたか?」と聞いて、地図に点を付けていったものです。ビルマ全体の地雷被害者総数ははっきりと分かりません。戦争をしているジャングルなので入っていけないし、ビルマ政府も被害者のデータを集めていませんので正確なデータの収集は本当に難しいのです。それでも一年に1,500人位、一日にすると3人以上の被害者が出ていると推定されています。
 

 

 では、配布資料に基づき本日のプログラムを説明します。地雷問題をあまりご存じでない方のために、最初にどうして地雷問題を取り上げなければならないかをお話しようと思っています。それからビルマの地雷被害者にインタビューした文章がありますのでそれを皆さんに読んでいただき、説明も加えビルマの地雷問題を知っていただく事にいたします。それから国際社会や日本がビルマの地雷問題に対してどんな対応をしているかをお話しして質疑応答に入りたいと思います。発表中も質問していただいて結構です。

 


 まず、今日の講演の目的を申し上げます。今日はビルマの地雷被害者のお話、ビルマの地雷問題を通して見えてくる社会問題ついても知ってもらいたいと思います。と言いますのは地雷問題をより広い視野でとらえていただきたいと思っているからです。タイで地雷問題に携わっていた時に、「地雷問題に取り組んでいる。」と言うと「地雷除去をしているのですね。」と言われることが多くありました。今日は除去だけが地雷問題の解決につながるのではないと強調したいと思っています。地雷というキーワードを使ってビルマという国を知ってもらいたいと言うのも本日の目的の一つです。
 これだけは皆さんに考えていただきたいという事をレジュメにあげておきましたのでご説明いたします。

一番目は「政府が地雷を使用しているのだから、財政・軍事力ともに少ない少数民族・反政府軍が安価な地雷を使うのはしようがないという考え方についてどう思いますか?なぜそう思いますか?」という問いです。これには賛否いろいろな意見があると思いますが、皆さんはどう思われますか、というものです。今日の私の話を聞きながら考えていただきたいと思います。

二番目は「なぜビルマに地雷があるのでしょうか・ビルマから地雷被害を無くすためにはどうしたらいいのでしょうか?あなたにできることはなんでしょう?」というものです。

そして三番目は「日本政府のビルマの地雷問題に対する姿勢についてどう思われますか?」というもので日本政府の対応についてお話します。最後に「地雷問題を解決するのにどんな方法がありますか?」というものです。難しい問題ですが、これも皆さんに考えていただきたい問題です。
 

 

 さてビルマとタイの国境にメーソットという町があり、そこにメタオクリニックという診療所があります。ビルマから逃げてきた女性医師のシンシアさんが開いたものです。シンシアさんはタイに住んでいるビルマ移民に無料で医療を援助しています。彼女が言うには、「ビルマには多くの病気があるが、クリニックにやって来る患者で多いのがマラリアであり、死ぬのもマラリアが多い。」という事でした。次に多いのがエイズだそうです。その他、呼吸器系の病気を患っている人も多いそうです。地雷を踏んでクリニックに運び込まれたのは昨年一年間で30人位だったそうです。マラリアの患者が300人から400人位来ていますから、それに比べると少ない数です。ではなぜ、その少ない数の地雷被害を取り上げるのかという事なのです。確かに世界中で見てもピストルなどの銃器で命を落とす人、交通事故で命を落とす人の方が数はずっと多いのです。なぜ地雷ばかりが注目されるかと言いますと、一つには「無差別性」があります。例えば、貴方が森を歩いているとき銃器が落ちているとして、兵士が出てきてその銃を拾う。でも貴方が子供であったり、妊娠していたり、あるいはその兵士の味方側の人間だとすれば、殺される確率は下がるかもしれません。兵士が生かすかどうかを選択出来るからです。一方貴方が森を歩いているときに地雷があったとき地雷は選んでくれません。誰でも踏めば爆発します。この「無差別性」が地雷に特有な残酷さとして注目される理由となっています。他に何か理由がありますか。(声「いつまでも残る。」)その通りです。「残存性」と呼ばれていますが、一度埋められた地雷は何十年も生きています。平和が訪れても地雷は効力を持ち続けます。この点も地雷が他の武器と違う点です。地雷にはいろいろなタイプがあります。一般的なものは、埋めて誰かが踏むタイプです。もう一つは地面に刺してわな線を引っ張っておいて、それに引っかかると爆発するタイプです。クレイモアもわな線で爆発させる事が出来る地雷です。さて、もう一つ地雷が注目される理由に「残虐性」という事があります。地雷は人を殺すためでなく人に怪我させるように作られています。なぜかと言いますと、戦争をしているときに死んでしまった兵士はそのままにされますが、怪我をした兵士は味方の2~3人の兵士が手当して後方へ運ばなくてはなりません。つまり、兵力が減少するわけです。それが地雷の目的なのです。被害者は肉体的、精神的、経済的な苦痛を強いられます。今、ビルマの地雷被害者は年間1,500名くらいと言われていますが、将来ビルマに平和が訪れ、難民の人達が前に居た場所に帰ると被害者数が一気に増加するのではないかと心配されています。これはカンボジアで実例のあるところです。だから、今地雷の問題を取り扱わなければならないだと思います。それが今日の講演のタイトル「約束された脅威」に表されています。
 

 

 では実際に被害者の人達がどんな生活を送っているのか、どこでどんな思いで暮らしているかを説明したいと思いますので、お配りした資料の「ジャングルの避難生活と地雷」を見て下さい。これは、タイで私と一緒に働いていたヨシュアが来日した時にも使ったものですが、皆さんに少しずつ読んでもらって、その後説明を加えて行きたいと思います。
 

 「ジャングルでの避難生活と地雷」

 私の名前はソー・レー・ディン。39歳。男性。クラー・ルイ・トウ地域にあるマウケー村に住んでいる。

 ソー・レー・ディンはカレンの人と思います。39歳。男性。今のところビルマの地雷被害者は男性が多いです。兵士が地雷の被害に遭うことが多いからです。地雷を踏んだとき兵士でしたか、市民でしたかという問いをしていますが、60パーセント位の人が兵士だったと答えています。兵士の中でも10人に1人は18歳以下の「少年兵士」です。「少年兵士」の定義は16歳以下から18歳以下に変わっていまして、18歳以下で軍事活動に関わっている人達の事を指します。子供は戦争に参加させてはいけないと言う決まりがあるのですが、それにも反しているのです。子供の人権侵害という事です。ビルマには国外で難民と認定された人々とタイに不法に滞在する難民とは別に国内避難民と言われる人達がいます。ソー・レー・ディンは国内避難民です。少年兵士の話に戻りますと、かつてDKBAというカレン軍から分裂した武装グループにインタビューする機会がありました。10人くらいの兵団のリーダーは25歳の男性でした。他の人は皆リーダーより年下で、中には13~14歳の頬のぷくぷくした小さな子が自分の背丈と同じくらいの銃やバズーカのような物を担いで来ていました。笑ったり話したりしている時の表情は本当に子どもです。でも武器を持つと顔が変わってしまうのです。それが強く印象に残っています。それでは次の段落をお願いします。

 

 私の家族は昔から繁栄、いや、その兆しすら見たことがない。なぜかって?私はジャングルの森の中で生まれ、戦争と改革の時代に育ったからだ。困難なことはたくさんあったが、それをいちいち書き留めたりなんていうことはしなかったから細かいことは覚えていない。でもたった一つだけ忘れられないことがある。去年の11月、収穫の時期にそれは起こった。
早朝のことだったと思う、私はいつものように、甥のパー・ベーの近くに寄り添うようにして一つの包みに入った米を分け合いながら食べていた。食事がすんでから私たちは食料が隠してある場所に歩いていった。食料の上に多いかぶせておいた葉や枝などを取り除き、二,三日間食事をするのに十分なだけの量を取り出した。これはなにも変わった行動ではない。私たちジャングルに隠れて住む人々にとってはごく日常の出来事である。その理由?隠れて住む人々には“確か”なことは何もないから、全てのものを安全な、目に見えない遠くはなれたジャングルの中に隠しておくのだ。

 ありがとうございました。ジャングルの生活をせざるを得ないのは定住が出来ないからです。軍隊の嫌がらせなどもあります。ジャングルの写真を何枚かお見せします。ジャングルの道には地雷が埋まっています。地雷除去のための探知機を軍は持っていますが、性能は良くありません。民族武装グループもNGOに地雷探知機がほしいと言うのですが、私の属していたNGOは、彼らが除去した地雷を再利用するのではないかと疑っていましたので彼らの要求に答えませんでした。それが却ってビルマの戦争を長引かせる事にもなると危惧していたのです。地雷の除去の仕方をお話しします。農作業用の熊手のようなもので地面をならしておいて、竹の棒などで地面を掘り、見つけた地雷を素手や竹の棒の箸で取り除きます。ビルマの人権侵害の一つとして言われている事ですが、ビルマ軍が市民を荷物運びのために雇って、彼らを自分たちの前に歩かせるのです。人間の「盾」のようなものです。「Human Sweeper(ヒューマン・スウィーパー)」と英語で言うのですが、人間を使った地雷の掃除ということです。軍はこうして地雷原を発見すると、荷物運びの市(ポーター)に地雷を素手で取らせたりもします。もちろんプロテクターもありません。難民キャンプに住む避難民の地雷被害者にインタビューをした時、地雷を踏んだという人もいたのですが、取り扱っているときに爆発してしまったという人も多かったのです。地雷被害を受けた兵士のうち約40%位は除去作業中とか埋める作業の途中で爆発して被害を受けたと思われます。それで、手を無くしたり、失明したり、耳が聞こえなくなったりした人が多いです。足を無くした人への義足の支援はあるのですが、手を無くした人や失明した人への支援はほとんどありません。支援活動をしているNGOの団体によると、それは優先順位の問題だという事です。手が無くても生きていけるが、足が無いと行動できなくて生きていけないという事で足を無くした人への支援が優先されるのです。それと支援を受ける人が義手より義足に満足感を示すという事もあります。眼の被害者についても義眼を入れている人がたまにいますが、例は少ないです。女性の場合には見た目を気にしますので、義眼だけでなく義足でも性能より、見た目の良さで選んでいるようです。地雷による被害者数は正確にはわかりませんが増えている事は間違いないようです。お手元のノンバイオレンス・インターナショナルの資料でも増えているのがお分かりと思います。この資料には死亡した人の数は入っていませんので実際の被害者数はもっと多い訳です。地域的にもタイとビルマの国境付近に限られています。では、次をお願いします

 その日、私は隠しておいた米を取りに村を出た。食料が保管してある場所の近くまで来ると、私は自分の前を歩いていた甥を呼びとめ彼のほうへゆっくりと歩きつづけた。突然、私は大きな爆発音を聞いた。その直後、自分の体全体が竹よりも高く放り出されているのがわかった。私は黒煙につつまれ、そのあとのことはなにもわからない。

 ここでは被害に遭ったときの状況が述べられています。市民の被害者達に尋ねて分かったのですが、食料を探しに行ったときに被害に遭ったという人が結構多かったです。後は隣の村に出かけるとき、歩いている時など日常生活の中で被害に遭うのです。兵士の場合だと軍事行動をしている時とういう答えが多かったです。
ビルマで使われている地雷の種類を紹介します。(写真を見せながら)この丸いものはビルマ国軍が作っていますが中国製のものと良く似ています。四角いのはクレイモア型でこれも国軍が生産しています。あとは、地面に突き刺して、ワイヤーを張るもの、アメリカから輸入したプラスチック製のちいさな地雷がありますが、少数民族側がよく使っているのが手作りの地雷です。このように青いパイプを加工して作ったもの、リポボトルと呼ばれているリポビタンDのガラス容器に火薬を詰め電池と組み合わせたもの、竹とか木の四角い容器をつくって中に火薬と電池の発火装置を詰めたものもあります。これはカンボジアなどで良く見る、危険を知らせるどくろのサインですが、ビルマではこういうサインを見たこともありませんし、聞いた事もありません。ビルマは今戦争中ですから、地雷の位置を教えるような事はしていません。ですが、ある少数民族の武装勢力によりますと、彼らは地雷地図を持っていて自分たちのテリトリー内の村人達には地雷の埋めてあるところを教えて注意しているとの事でした。とは言うものの、実際には村人達はあちらこちらを動き回りますので、地雷の被害を受ける村人は多くいます。統計でも40パーセント以上が軍事活動をしていないときに被害に遭っています。地雷地図についても、それを知っている人が戦争で亡くなってしまう事もありますので、そうした場合には地雷の埋まっている場所は分からなくなってしまいます。私の上司がカレン族の武装勢力の人に話を聞いた時に、その年老いた兵士は自分が死んでしまったら地雷の埋めてある所は分からなくなってしまい、地図があっても正確ではないと語っていたという事です。そして、その兵士は二日後に事故で亡くなったそうです。彼の言った通りになった訳です。次をお願いします。

 

 意識を取り戻したとき、私は平らな岩に寝かされていた。私の近くにいたという甥の顔すら見えなかった。自分の力が消えていくかのように感じた。私は自分の体を触り左足が爆発で吹き飛ばされたことに気づいた。こういう出来事が存在することは知っていた。友人の中には地雷で手足、また命を失ったものもいたからだ。私は地雷の被害者になったのだった。足からは血が滴り落ち、視界が暗くなっていった。体中の力が消え去り私はまた意識を失った。

 地雷を踏んだときの怪我の写真がありますので回覧しますが、とても惨いものですので見たい人だけにしておいて下さい。(板書しながら)地雷を踏んで負傷しますと爆風によって見えている部分よりずっと奥の方まで損傷します。傷そのものは致命的でなくても、ジャングルの中で負傷したりしますと医療品はありませんので、細菌による二次感染を起こして負傷部位よりずっと上の方で切断する事になったりします。ここでビルマの医療の状況についてお話ししますと、地雷被害者が治療を受けるまでに要する時間は被害者からの聞き取りによりますと平均で12時間かかります。半日以上怪我をしたまま苦しむという事です。ですが、治療を受けられる人達は幸運と言えます。出血多量で死んでしまう人もいます。タイの難民キャンプに逃れてくる被害者もいます。彼らはNGOがタイの病院に連れていってくれたりしますので良い治療を受ける事が出来ます。ですが、タイまで来られない人達はビルマ国内で治療を受けなければなりません。内戦中ですからカレン族の人ならカレン族の医療チームに診てもらう事になります。村の薬草を使う治療師に診てもらう事もあります。中には自分で治したという人もいます。その他に、先ほどお話しした、タイとビルマ国境で医療活動をしているメタオクリニックが行っている、バックパック医療チームの巡回医療を受けられる運の良い人もいます。ビルマ国軍の軍事活動に携わっていて地雷被害を受けた場合にはヤンゴンの国立リハビリテーション病院に運ばれて治療を受けた人もいます。ここは国際赤十字連盟の援助を受けていて、無料で治療が受けられるという事に成っているのですが、実際に治療を受けた人の話では交通費や食費は実費負担が必要だったとの事です。200人の被害者の内二人だけですが二回地雷を踏んだという人にも会って話を聞きましたが、自分の不幸をユーモアあふれた語り口で話してくれました。では、次をお願いします。

 

 後に甥が私がどのように傷ついて彼がどのように私を途中まで運んだのか説明してくれた。私を運んでいるとき、彼は私に質問をし続けた。私がその質問に答えなくなると彼は私を平らな岩の上に寝かせ、村に助けを呼びに行った。三日間、私は意識不明だった。再び意識を取り戻したときには私は家にいた。私の世話をしてくれた医療関係者は、私の傷は命に別条はなく他の人と同じように生きられると言った。しかし私の体の一部は地雷の犠牲にあったのだ。どうしてこのことを忘れることができるというのだ?母から授かった体の全部分を私はもう持っているわけではないのだ。四ヶ月が経った今も私の傷は癒えていない。義肢を装着する計画もあったが、傷が癒えていなかったために受け取ることができなかった。

 義肢を装着するためには傷が癒えていないといけないので時間がかかるのです。難民キャンプでは義肢が無料で支給されます。ビルマ国内でもカレンの州都パーンでは国際赤十字連盟が活動していてそこへ行けば無料で義肢を受け取ることが出来ます。先ほどお話ししたヤンゴンでも義肢は無料配布されます。次をお願いします。

 私が山を登り、川を渡りジャングルの村へ行くのには二人の人間の助けが必要である。私はひどく落ち込んでいる。ときどき左足を失ったという事実に打ちのめされる。しかし私は友達や先生の導きに従って未来のために今、生きている。彼らは私の世話をし、元気を取り戻すよう励ましてくれる。私のように苦しんでいる人が他にもいることを私は知っている。だから、他の人のように未来へ向かって生きていることに私は満足しているのだ。

 この人は力強い人ですが、中には精神的なトラウマを負ってしまって外出が出来なくなってしまう女性もいます。ある女性は16歳の時にタケノコを取りに行って地雷を踏んだ後、NGOの支援で義足をもらったのですが、外出が出来なくなりました。友人が映画や踊りに誘ってくれたりしても行けません。普通彼女たちは「サロン」をはいていますので外見上義足かどうかは分からないのですが、自分の足が無い姿が醜いと思い、自分の足がないことで友達まで非難されるのが怖くて外出出来ないと言います。
 義足について申し上げますと、タイとビルマの国境あたりで膝下の義足を作りますと、大体3,000バーツ(一万円くらい)で作れます。膝より上の場合だと9,000バーツ(三万円)位で作れます。義足は消耗品ですから三年くらいしますと取り替えなくてはなりません。ところが、このあたりに住んでいる人達には現金収入がありません。インタビューした50歳で子どもが三人いる男性の場合、タイ側で不法に移民として働いて収入を得ていましたが、月収が大体6,000円位でした。これを考えると一万円の義足は高い物です。実際病院へ行く交通費も出せません。余談ですが、この50歳の男性がインタビューの後で、子どもを学校にやるお金を援助してほしいと願い出ました。年間約一万円位です。私のような外国人の小娘に50歳くらいの大人がその金額を無心する事が、その人の心情を考えると私にはショックでした。私がお金持ちの日本人と分かっての事だったと思います。彼は果樹園を経営していましたが、義足の女性の一人はミシンの仕事をしている人もいました。その他建築の日雇い仕事をする人や、季節労働者として働く人もいました。彼らの内の一人は、「自分は健常者よりもよく働けるのに、それが雇い主に分かって貰えない。」と嘆いていました。また、少数ですが義足を作る仕事に携わる人もいます。精神的なトラウマを負った人への医療または支援は難民キャンプを除けばほとんど実施されていません。
 

 

 今まで地雷の被害者についてお話しして来たのですが、ここでどうして被害者が出るのかを考えてみたいと思います。どうして地雷の被害者が出ると思いますか。それは使う人がいるからです。ビルマの場合は、ビルマ国軍と反政府勢力です。昨年の調査では少なくとも13の反政府民族グループが地雷を使っているのが確認できました。使い方は、まず第一に軍事目的です。例えば反政府勢力を支援する村を破壊し、その後で地雷を埋めて村人が帰って来られなくするといったやり方です。次に経済目的と呼ばれるものです。ビルマは資源が豊富な国でして木材や宝石が取れます。例えば木材に眼を付けたタイのビジネスマンが国境を越えて反政府武装勢力の土地に入って来る訳です。彼らは反政府勢力と取り引きして一定の範囲内で木材を切り出します。この場合に決められた範囲を超えて木材を切り出さないように地雷で周りを囲むのです。ビルマは麻薬の生産量が非常に多い国です。アフガニスタンがアメリカに占領されている現状ではビルマが生産量一位とも言われています。麻薬密売人達が麻薬を運ぶ道路沿いに地雷を埋めて他の人が入って来られないようにするという使い方もあります。

 


 では、なぜ地雷を使うのかを考えますと、まず地雷があるからです。今は地雷を輸入することはしていないのですが、前にはカンボジアで使った地雷がタイを経由してビルマに入ってきたりしました。ビルマ国内で生産もしています。ビルマ国軍が生産に関与しています。最近では地雷そのものを輸出入しているという話は聞きませんが、パーツを、例えばヒューズを輸出入しているという話を昨年の調査の時に聞きました。タイからビジネスマンに頼んでヒューズを買ってもらい自分たちの支配地域で使うのです。では、なぜ生産するかを考えると、それは戦争をしているからです。
 次にこの状況に対してどんな手段があるかを考えてみます。まず、地雷の除去作業があります。そして被害者の生活支援があります。これらが皆さんの注目する事です。何億ドルというお金が地雷問題に使われているのですが、90パーセントは除去作業に使われています。除去用の機械を買ったり、送ったりする費用に使われるのです。日本はこの5年間で103億円の援助をしましたがそのうち90パーセントは地雷除去のために使われ、残りの10パーセントのみが被害者支援に使われました。地雷除去をしても地雷が無くなる訳ではありません。それでノーベル賞を受賞した国際地雷廃絶キャンペーン(地雷関連NGOの集まり)がやっているのは、生産を止め、輸出入を止め、貯蔵を止め、使用も止め、被害者支援も政府にやらせるという事を書いた対人地雷全面禁止条約というものを制定して、各国政府に署名、批准させて地雷を無くしていこうというキャンペーンをやっています。国際地雷廃絶キャンペーンはICBLと略されます。ICBLの日本の構成団体は本日会場にお越しの北川さんが会長を務める地雷廃絶日本キャンペーンですがJCBLと略されます。ICBLの加盟団体は500団体以上ありましてそのネットワークで政府に地雷問題の解決のための働きかけをしています。ビルマはまだ加盟していません。日本はかなり早い段階で加盟しています。日本が今何をしているかと言いますと、今年(2003年)9月に中旬にタイに世界中の加盟国代表や地雷問題NGO関係者が集まる締約国会議が開催される予定で今東南アジアに世界の注目が集まっています。そんな訳で外務省は自分たちが働きかけをして東南アジアの未加盟の国々に地雷全面禁止条約への加盟を呼びかけたいと言っています。ASEAN10カ国の中で対人地雷全面禁止条約に入っているのはタイとカンボジアとフィリピンそしてマレーシアです。条約に参加するには2段階があります。署名をする。次に批准をする事です。署名だけしているのがインドネシアとブルネイです。全く参加していないのがシンガポールとビルマとベトナムそしてラオスです。ビルマに対する日本政府の働きかけについては、東京の外務省の人は加盟するようビルマに働きかけているという事でしたが、ビルマの日本大使館の人に聞いてみたところ、何も働きかけてはいないという事でした。なぜ何も働きかけないかと言いますと、日本はビルマに友好政策を採っているからです。アメリカなどは経済制裁も含め一切の投資をやめています。人権侵害が残っている軍政に援助はしないと明言しています。日本はそういうやり方でなくビルマ政府と友好的になり、信頼関係が出来てからビルマを変えて行こうとしています。ODAもビルマに出しています。そんな状況の中で地雷の問題を持ち出して友好関係にひびが入るといけないので一切触れられないという事でした。ただ地雷を使うのが平和でないからだという見方から紛争問題解決には努力していると言っていました。実際にどういうことをしているか尋ねてみると、国際赤十字連盟に拠出しているとの事でした。一方オーストラリアやイギリス、ドイツの大使館で地雷問題について話してみると大変積極的で、情報も欲しいのでプロジェクトで何か支援して欲しいことがあったら言って下さいとの事でした。オーストラリアはビルマ政府との友好関係を大切にしているのですが私が大使館を尋ねると大変積極的な態度で応対してくれました。日本大使館だけが時期を待ちましょうというという消極的態度でじれったい感じでした。

 


 今問題になっていることにヤンゴンの水力発電所の問題があります。発電所のダムで住んでいる人が移住させられたり、環境破壊が起こったり、作られる電力が兵器産業に使われるのではないかという疑いがネパール・ウオッチなどのNGO団体から指摘され日本政府に再考を求めています。国民のためにならない援助を見直すよう申し入れているのです。日本の援助ではその他、道路や橋の建設があります。空港もありますが援助はしたのに実際に空港が改修されたという報告はありません。


 

 ビルマの問題をもっと知りたい方には「ビルマ情報ネットワーク」のホームページにアクセスしていただくと良いと思います。ビルマに関するオンライン図書館のようなものでジャンルがたくさん分かれています。リンクも張ってありますので便利です。例えば「アース・ライト」、「nonviolence international」、地雷の問題なら英語ですが「ICBL」があります。日本語の地雷問題なら「JCBL」が良いと思います。

(質疑は省略)                                        

 

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